タイトル | : 2000/07/02■014 音映的越境 |
記事No | : 113 |
投稿日 | : 2013/10/05(Sat) 09:08:28 |
投稿者 | : 管理人 |
[音映的越境] というタイトルとは余り関係ない内容のライヴだった(7月1日高円寺ショーボート). 出演はChe-SHIZU,陰猟腐厭,素敵なティータイム,m.o.r.,A・I・R(良かった順).5組出演で4時間,疲れた. 高橋幾郎が抜けた後のシェシズを観るのは初めてだったが,今回は菊川貴央がドラムス.「ゲスト」と紹介されていたから,継続するのかどうか分からないが,演奏は全く高橋を踏襲したスタイルで,間合いを生かした効果音的なds+percだった.実際,シェシズには,普通にビートを叩くドラマーよりも,こうしたスタイルのドラマーの方が似合う.演奏の出来不出来の差が大きいバンドだと思うが,今回は中くらい.向井のヴォーカルはやや不調. 久々の陰猟腐厭は,「曲」の一応の枠の中で,安易なアドリブに走らずに如何に予定調和から逃れた演奏をするかに腐心している様が見取れて,そこが面白かった.クラウトロックの残響が聞こえたが,空耳かも知れない. 以下省略. 誰とは言わんが,夢遊病者を真似て徘徊し(といってもステージと客席の間だけだが)時々わざとらしい叫び声を上げ最後に衣服の一部を鋏で切り裂く−−みたいなことをやって「パフォーマンス」と称する愚行は,いい加減やめにして欲しいものだと思った.
[今読んでいる本と] ☆ 佐藤亜紀「鏡の影」(ビレッジセンター出版局) 16世紀西欧を舞台にした「一種の聖杯探求物語」(小谷真理),豊穣な物語である. 「バルタザールの遍歴」と「戦争の法」を読んでファンになって以来,ずっと探していたが,見付けることができず,なんで売ってないのかなーと思っていたのだが,「噂の真相」本年6月号を読んで疑問が解けた. 同誌によれば,平野啓一郎の芥川賞受賞作「日蝕」が実は盗作であることを隠蔽するために,そのネタ本である「鏡の影」を,両作品の版元の新潮社が意図的に絶版にした疑いがあるという(この間の事情は佐藤亜紀のサイト(http://www.dccinet.co.jp/tamanoir/)参照.盗作問題は別にしても,ここは金井美恵子並の毒舌家である著者と,その気になれば差しで喧嘩ができる面白サイト). 平野本の方は読んでないから何とも言えないが,まぁ,盗作ベストセラー作家山崎豊子を庇い続ける新潮社であるから,たとえ盗作作家でも平野の方が「売れる」と判断して佐藤を切ったのだとしても,別に不思議はないわな. ....といった生臭い話も嫌いじゃないが,何はともあれ,今回の復刊は喜ばしい. 例えば,登場人物の性格や筋運びがどうにも日本的かつ通俗的で違和感を覚える佐藤賢一の西洋歴史小説などよりも,佐藤亜紀のそれの方が「偽物」としての完成度は遙かに高く,外国小説と見紛うばかりの風格がある....「だから」,売れないんでしょうけど. ☆ アラン・ソーカル+ジャン・プリクモン「「知」の欺瞞」(岩波書店) 副題「ポストモダン思想における科学の濫用」が示すように,ラカン,クリステヴァ,ドゥルーズ+ガタリといった,ポストモダン思想の大物たちが,自説において科学理論を如何に誤用しているかを,プロパーの科学者の立場から丁寧に分析した本で,欧米ではかなりの騒ぎを引き起こしたらしい. クリステヴァなど激怒して,「作者を精神病院にぶち込め」と,精神分析学者にあるまじき暴言を吐いたそうな.更に旦那(ソレルス)も的外れな援護射撃をして馬鹿夫婦ぶりをアピールしたようで(これらのエピソードは別の本で読んだのだが),おフランスの思想界はほんまにおもろいでんな. 本書が生まれる切っ掛けとなったソーカルのパロディー論文も付録で採録されているが,これは立場的に「敵」である「ソーシャル・テクスト」誌にポストモダニストの「振り」をして投稿したら採用されてしまい,後で雑誌側は大恥をかき,大論争を巻き起こしたことで有名なもの. 思えば,ラカンがトンデモ系であることなど,著作をちょっと囓っただけで俺にでも分かるのに,なんであんなに信奉者が多いのか,かねがね疑問だった.専門家に冷静に(かつ,ねちねちと),王様が裸であることを暴露してもらうのは,有意義なことである.
[もう読み終えた本] ★★★ 悠玄亭玉介(聞き書き 小田豊二)「幇間の遺言」(集英社文庫) 事実上最後の幇間となった悠玄亭玉介の,死の直前までのインタビュー. 究極の接待業「幇間」の世界のみならず,歌舞伎・落語・講談等の物故名人の逸話が,驚異的な記憶力をもって活写される. 資料的価値も高いが,何より粋で面白く危ない話満載で,芸能に少しでも興味がある向きには大変お得な本. ★★★ 恩田陸「象と耳鳴り」(詳伝社) 泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズを想起させるトリッキーな短編連作集. 冷静に考えれば相当無理のある話が多いのだが,つい納得させてしまうのは,要するに技が巧みということですね. 本作に限らず,恩田作品の中には既存の小説(ジャンル不問)の話題が臆面もなく出てくるが,博覧強記というんじゃなくて,本当に本が好きなんだなぁと感じさせるところは,人柄であろう. ★ 貫井徳郎「失踪症候群」(双葉文庫) まさかこのまま終わるんじゃないやろな,と思ったらそのまま終わってしまった,ぬるい犯罪小説. 文章は巧いんだけどねぇ. ★★ 西澤保彦「依存」(幻冬舎) 匠千暁シリーズ最新刊. メインの事件の他にも,「依存」というテーマを共有する複数の事件が描かれる. 作者は畳み掛けたくてこうしたのだろうが,1本の長編にぶち込むよりも,連作短編集のような形を採った方が,散漫な印象を与えずに済んだんじゃないだろうか. このシリーズの,軽妙な語り口/ヘヴィーなテーマというアンバランスさは好きなんだけど,今回はクライマックスが今イチだし,そこまでに至る展開も冗長すぎる. キャラ萌えのファンには許してもらえても,本作が初めてという人にとっては,辛いであろう. 「解体諸因」(講談社文庫)から始めて,後は物語世界の時系列に沿って読み進める(今のところ全6冊)のが正解だと思う. ★★★ 風間嵐・加藤義彦編「歌手中山千夏 おりじなる・ふぁーすと・あるばむ」ブルース・インターアクションズ 去年出てたとは知らなかった.中山千夏の,最初のLPを含むビクター時代の全音源(22曲)を収録したCDブックで,資料も充実.千夏マニアって存在したんだ,やっぱり. 俺は運動家(?)としての彼女には全く与することができないが,歌手としての彼女のファンなので,即購入. 因みに,役者としての中山千夏に関しては,TBS「お荷物小荷物」の「田の中菊」役の印象ぐらいしか残っていないが,当時「確かに可愛いけど,それにしてもモテすぎの役なのでは」と不思議に思いつつ見た記憶がある. 「あなたの心に」や「とまらない汽車」は勿論のこと,「Zen Zen ブルース」や「ほそい銀色の雨」といった隠れた佳曲が収録されてて嬉しい.天然の歌の巧さである. 「ぼくは12歳 高橋悠治ソング・ブック」(日本コロムビア)も是非復刻して欲しいもんだ.
[くらきまい] 宇多田ヒカルにとっての倉木麻衣は,江口寿史にとっての末松正博みたいな存在なのだろうか.
2000/07/02 GESO
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