タイトル | : 2000/12/20■039 歌姫? |
記事No | : 139 |
投稿日 | : 2013/10/05(Sat) 10:06:33 |
投稿者 | : 管理人 |
[歌姫?] 松本亀吉『歌姫2001』(太田出版)を読む.というか,眺める. 「この本は、いわゆるJ-POPの女性アーティストを網羅する意図のカタログ状の体裁だが、実は、私の日記のような内容になるだろう。対象を批評する気はないし、セールスに貢献するつもりもない。そんな権利は私にない。読者に与える影響など知らない。いやなら買うな。私の本だ。」と冒頭で謳ってる本に関してどうのこうの言ってもしょうがないのだが,貸してくれた西村くんに感想を求められているので,書く. 採り上げられた100アーティスト(腰巻き表記: ★安室奈美恵、UA、宇多田ヒカル、岡田有希子、カヒミ・カリィ、川本真琴、小泉今日子、小柳ゆき、椎名林檎、SPEED、pizzicato five、広末涼子、古内東子、MISIA、モーニング娘。、森高千里、渡辺満里奈......and more!!)の殆どは80〜90年代にデビューした方々で,俺は聞いたことのないもんが多いのだが,困ったことに,この本を読んだせいで,機会があったら聞こうという意欲さえ失せてしまった.どうしてくれる.聞く気を失わせるレビューを書くという点では,三田格に匹敵する才能かも. アヴァン・ポップスもアイドル・ポップスも並行して矛盾なく聴くという態度は結構.というか,今や当然のスタンスといえる. だが,向井千惠(項目としては「Che-SHIZU」)や白石ひとみといった人も登場するのにはアレっとは思うけど,殆どが,若くて可愛いけりゃ,あるいはセクシーであればOKという,筆者のしょうもないイデオロギーに基づいて選ばれた「歌姫」たちであり,これにはとても与することはできない.たまーに出てくる正論も,基本がこれだからどうも信頼性に欠ける.早い話が,ただのフェロモン馬鹿でしょ,この著者は. 松山晋也『プログレのパースペクティブ』(だったっけ)もそうだったが,この手の「こういう音楽が好きな自分が好き」ってことをアピールするだけの自己愛垂れ流し本は,それにつきあえる同類でもない限り,わざわざ読むに価しない.筆者も「いやなら買うな」とおっしゃってくれてるわけだし. 賞賛されるべきは,むしろ,こういう本を出版してくれた版元の太っ腹さであろう(太田出版様). 趣味的なことに限って言っても,カヒミ・カリィやハイポジでイっちゃったり,フリッパーズや坂本龍一やピチカートをマジに「レスペクト」しちゃってる方などとは仲良くなれんな,俺は.
[ファントム天国] 自分に興味のないことを熱く語るのを聞かされることほどシラけるものはないと知りつつも,俺もちょっと『歌姫』の毒気に影響を受けたのか,馬鹿なことを書きたくなってしまった.困った.が,最初で最後ということにして,勢いで少しだけ書く. バンド,ソロを問わず,俺が今まで生で見たうちでいちばん好きな音楽は,86年9月から89年5月にかけての,オリジナル・メンバーによるザ・ファントムギフトの一連の演奏である.バンドの結成は85年3月らしいので,俺は約1年半遅れて見始めたことになる.それだけでも口惜しい. あまりにも好きなために人に語ることが虚しく思われ,公言することは少なかったのだが,ミニスカでひしめき合ってモンキーを踊る10代後半〜20代前半のネオGS追っかけギャルたちの後ろで,感涙を堪えつつひっそり聴き続けた30代の馬鹿な私である. 俺が追っかけの彼女らに共感できなかったのは,「おまえら,今はキャーキャー言ってても,何か月か先にはどうせ別のバンドを追っかけとるんだろうが」と思わせる軽薄さを感じたからである.今から思えば,中には筋金入りのファンだっていたんでしょうが. 俺は腐ってもまともな社会人であったから,さすがに休みを取って大阪や名古屋まで追っかけ回すことはできなかったが,都内でのライヴは可能な限り見に行った.いっぱい隠し録りもした.これらのカセットは,音質は最低だが,74年の浅川マキ蠍座ライヴ録音と並んで,俺の宝物である. で,ファントムのどこがそんなにいいのか? 個々のメンバーについていえば,狂ったようにカッコいいギターを弾くナポレオン山岸を除いては,大した技量の持ち主はいない. 一番人気のピンキー青木のヴォーカルは,いつももう少しなんとかならんものかと思わせるレベルだし,カリスマ性も足りない.走り気味ベースのサリー久保田は,語りに照れが見られてこっちが恥ずかしくなる.笑顔のドラマーチャーリー森田は,性格はいちばん良さそうだが,ドラムはルーティーンしか叩かない. それなのに,この4人が一緒に演奏すると,もの凄く妖しく切なくエキサイティングな和風ガレージサイケの世界が出現するのだ.これはもう,音楽のマジックというしかない. 原曲を超えたカヴァーがいくつもある,というのも奇跡的である.例えばヤンガースの「マイ・ラヴ・マイ・ラヴ」と「離したくない」,ブルー・インパルスの「夜明けに消えた恋」,カーナビーツの「おまえに夢中さ」あたりは,原曲よりも良い.「テル・ミー・モア」も,ときにテンプターズを超えていた.原曲とタメか,やや劣るかなというのは,ダイナマイツ「トンネル天国」とかジャックスの「いい娘だね」,「堕天使ロック」ぐらいか.アダモをカヴァーしたジュリーのカヴァー(だったと思う,確か)「ヘイ・ジュテーム」も良かったな. オリジナル曲にも,「ジェニーは嘘つき」,「夜空に消えたシンデレラ」,「水晶の誓い」,「魔法のタンバリン」等,名曲が目白押しである. いやー,あんないいバンドはなかった.見れて幸せだった. あのとき/あのメンバーでなければ駄目だったということは,メンバーチェンジ後の90年のライヴや,解散後ピンキーが結成したピンキー&ザ・クレイジー・ラヴ・マシーンを見ても,確認できた.昔のナンバーを演っても,全然よくなかったから. ところで,俺はpizzicato fiveに関しては爪の垢ほどの興味もないが,そのリーダーである小西康陽という渋谷系醜男帝王がファントムのデビュー・シングル(「ジェニーは嘘つき」c/w「ベラドンナの伝説」)について書いたレビューが非常に印象に残っている. 捜してみたら,『リメンバー』誌Vol.13(86年9月発行)に載っていた.ちと長くなるが,資料的価値もあろうかと思い(ねーよ),原文のまま全文引用する.スカした奴が珍しく本音を吐いてて面白い. 「ファントムギフトのデビュー7インチを紹介します。ここ数年東京に現れたバンドではピチカート・ファイヴがライヴ,レコードともにいちばん凄いと思っていましたが,その確信も揺らぐ大変なバンドの登場です。 御存知のとおり,音はズバリ!サイケGSでその掘り下げの深さに誰もがまず感動する様ですが,決してGSに対する知識は多くない僕ゆえ,そのマニアックなディテイルを語れないのは申し訳ない,でもそのような豆知識的な要素だけでは彼等の凄さは説明出来ないのであります。 レコードから,”そして信じ難く燃焼度の高いステージ”から聴いて取れるのは彼等の今の音楽業界の上から下まですべてとの完全な孤立ぶりです。ここまで他と断絶していると,その事自体に迫力が生まれます。 彼等の純粋に音楽的であろうとする態度が生んでしまうある種の暴力性。音楽に対するマニア性が持つアナーキーな力をファントムギフトは既に持っています。彼等の存在は,例えば言葉や生き様で「時代を撃つ」気でいるバンドを嘲うかのようです。パール兄弟やシオンの,かつての頭脳警察と最近のインディーズ系のバンドの「批評性」なんてお笑い草ですから。(文責は小西にあるからね。)ただ最近多い,過去の音楽への愛情やレトロ趣味を売り物にする連中,ピチカート・ファイヴなどもその安易な便乗組ですが,そうした存在からも彼等は一線を画していてほしいと思います,よく「オリジナルへの愛が無くては」とか言う人がいますが,それを越えた不遜さ,オリジンを踏みにじる態度があってこそ強いパワーが手に入れられる訳ですからね。 どうかファントム・ギフトはリメンバーにすら載らない,そんなバンドでいて下さい。 小西康陽」 どうだろう.頭や知識でしか音楽を作れない者が,肉体や本能で音楽を演っている者に対して抱く羨望,嫉妬,そして憎悪までもが窺える名文ではないだろうか. そして,この文章を書いた1年後,小西は自らファントムのメジャーデビュー(&ラスト)アルバムをプロデュースする. それは結局,ファントムのライヴにおける燃焼度や生々しさを削ぎ落とし,こぎれいなスタジオ録音として再演させたものにすぎず,小西本人が意識したかしないかに係わらず,結果的に「彼等」に対する「復讐」となっていたのだった.
2000/12/20 GESO
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