タイトル | : 2001/02/03■071 愛のひだりがわ |
記事No | : 171 |
投稿日 | : 2013/10/05(Sat) 11:46:32 |
投稿者 | : 管理人 |
[『愛のひだりがわ』] 筒井康隆の最新作.ジュブナイルである.『恐怖』以来1年ぶりの小説. 近未来の荒廃した関東地方を舞台に,左腕の不自由な少女が出奔した父親を捜して旅するお話. 全然設定が違うにも拘わらず『千と千尋』を連想せずにいられないのは,俺だけか?....といった反語の場合,発した本人は「自分だけじゃない」と思ってるし,聞いた人は「お前だけだよ」と突っ込み入れたく思ってる,という傾向が一般的であるが,それはともかく,まぁ,大筋として異世界を旅する主人公の成長物語であることだとか,しかも本人の努力よりも主として周囲の情況の力が主人公を成長させるところだとか,登場人物の口を借りて労働の尊さが訴えられるけれど主人公自身は大して苦労することもなく好運によって富を得られるところだとか,主人公が窮地に陥っても必ず人智を超えた存在を含む誰かが代わる代わる助けに現れるところだとか,結局あまり教訓的なお話になっていない点が,似ているのだと思う. 物語が御都合主義的であっても何も悪いことはない――巧く描かれてさえいれば,だが.で,この作品はまずまずの出来だと思う. もともと筒井は少年少女小説が得意な作家である.『時かけ』はもとより,2年前の『わたしのグランパ』も,物語は紋切型だが,さすがに巧いと思わせるものがあった. むしろ,大人向けの小説の出来が,ここ10年ぐらい低調だ――『恐怖』なんて,つまんなかったもんなぁ. 面白いかつまらないか,是か非かは,結局は個々の作品について判断するしかなく,ブランド=作家信仰は無意味だと考えるので,物心つく前から読み続けてきた筒井に対しても,俺は盲目的なファンにはなれないでいる. ちなみに,俳優としての筒井に関しては――本人は小説以上に本気で取り組んでいるのだろうが――臭くて見ちゃいられない,というのが正直なところである.
[Luc Ferrari] 最近見聞きした愚にもつかない演劇や無難な音楽の中にあっては,仏蘭西現代音楽界裏の帝王リュック・フェラーリの初来日演奏会が,一番面白かった. 講演+シンポジウムや,ピアノ作品の発表会もあったのだが,結局俺が聴いたのはテープ音楽の演奏会のみ(1月27日 北区滝野川会館大ホール). ちなみに「テープ音楽」とは,「演奏家を介さず直に録音媒体に音を記録する音楽の総称」で,録音媒体がオープンリールの磁気テープしか無かった時代の名残であるが,現代音楽畑の作品に限定してこう呼ばれているようだ――範囲を広げれば,打込みの宅録だって「テープ音楽」ってことになっちゃうからね. 録音媒体が豊富な現在,会場で実際にテープを再生するには及ばないわけで,今回のコンサートでも,多分CD化されたものを使ったのだろう. 曲が流れ出すと舞台(誰もいない)と会場の灯りが溶暗,曲が終わると溶明〜存在しない演奏者に向けて聴衆が拍手....という光景を何となく滑稽に感じたのは俺だけか?....といった反語の場合,発した本人は「自分だけじゃない」と思ってるし,聞いた人は「お前だけだよ」と突っ込み入れたく思ってる,という傾向が一般的であるが,それはともかく,まぁ,会場のどこかに作者フェラーリがいるということで拍手するんだろうし,実際,演奏――つうか,「再生」だな――終了後,本人が舞台に上がって挨拶したのだけれど. で,再生された9つの作品は,それぞれ趣は異なるものの,サンプリング音楽に慣れ親しんだ最近の耳にも,ザッパのリズム・カウンター・トラックみたいな「実験的ロック」に馴染んだ古めの耳にも,違和感なくすんなり入ってくる,いずれも楽しい具体音楽であった. ポップで馬鹿っぽいが,格好いい瞬間もたまにあり,気取りがなく明るい....ってことは,アカデミックな音楽としては「軽薄」ってことなんじゃないかしら.現代音楽ファンよりもむしろ前衛ポップス系のファンに受けてるという話も頷ける. フェラーリ自身,近年はDJのための作品も書いたりしてて,29年生まれにしては足腰が軽そうな爺さんである.実は深謀遠慮の人なのかも知れない――そうじゃないのかも知れない――が. 98年の米国旅行の記録を "Far West News" として作品化したように,日本旅行の記録を "Far East News" として後々発表するんだろうか? すると思うね. 俺も触発されて,帰宅後早速,久しぶりにコラージュ(誰でもできる具体音楽)を作った.http://pub.idisk-just.com/fview/WHZMeZ1Nor418vKVxh6VT-lVZhV2UPWi1 ..... HK45BTaA2g(URL長いわ,インターネットディスク)にアップしたので,物好きな方は聞いて眉をひそめるよーに.触発はされたものの,内容は似ても似つきません.
2001/02/03 GESO
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