タイトル | : 2002/10/31■087 西原儀一 |
記事No | : 187 |
投稿日 | : 2013/10/05(Sat) 14:28:06 |
投稿者 | : 管理人 |
[西原儀一の世界] 西原儀一著・円尾敏郎編『やくざ監督 東京進出』(ワイズ出版)出版記念特別上映会「活動屋・西原儀一の世界」に行った(10月20日・26日,東中野BOX). 1929年生まれの西原は,昭和20年代から映画,テレビ,CM,舞台等の制作に関わっており,自身はヤクザではないが,ヤクザの親分連中にも一目置かれる任侠と反骨の人である.映画もテレビも,一般映画も成人映画も分け隔てなく,要は「物語」を作り続けてきたということらしい. 『やくざ監督....』は,彼の波瀾万丈の人生を,編者が長時間インタビューしたものに,スチル写真を含む豊富な資料を加えたもので,昭和日本映画の裏面史としても,芸能論としても,演技論としても有用.イイ話満載の,無茶苦茶面白い本だ. 今回の上映作品は,1日目が『桃色電話<ぴんくでんわ>』と『引裂れた処女』,2日目(オールナイト)が『情事に賭けろ』『肉体の誘惑』『狙う』『美しき悪女』『チコという女 可愛い肌』の計7本で,いずれも西原が独立プロ(葵映画)で監督した昭和40年〜43年の成人映画からのセレクション.いずれもオリジナルプリントは紛失――というか,盗まれて台湾に売っ払われたそうだ――しており,完全な形で観られないのが残念である. 両日とも観客は50人程度で,多いのか少ないのかよく分からなかったが,上映の合間に監督本人と当時の出演者たちのトークショーを交え,充実したひとときであった. 感極まって突然歌い出した新高恵子(葵映画出演後,天井桟敷に加入した元歌手).今でもVシネマで「犯し屋」を続けている港雄一.椙山拳一郎も野上正義もすっかり髪の毛が白くなったが,まだ現役俳優(椙山は主に演出)だという.濃い人たちである.元・男性と思われる謎の女優も出てきたな. 映画の内容はといえば,成人映画だから当然濡れ場はあるが,それほどハードなものではなく,物語性を重視したごく真っ当なものである.今だったら一般映画に認定されるかも知れない. もっとも,筋書き自体はかなり陳腐だ.例えば『美しき悪女』は――真面目なサラリーマンがバー勤めのヒモ付き女に一目惚れして金を貢ぐ.騙されていたことが分かっても女を許す男の一途さに打たれ,女は一緒に逃げようとするが,待ち構えていたヒモと乱闘になり,ヒモを刺し殺してしまう.女は飛び降り自殺し,男は呆然と佇む――というお話. どこがいいかというと,きめ細かな演出,常連の俳優たちの個性の強さと演技の巧さ,テンポのいいカメラワーク等々.後年のピンク映画より,技術性が高いのではないだろうか.あと,殆どが救いのない殺伐とした作品なんだけど,どこかに必ずギャグとかユーモラスな場面を入れるところが好ましい. 意外に実験的なこともやっていて,例えば『狙う』は,おおよその筋だけを決め,シナリオなしで撮影した作品だそうだ.それでも,ちゃんとお話になっているのは,俳優たちの力量のお陰であろう(台詞は,シーンごとにディスカッションして作っていったらしい).俺はこの作品が一番面白かった. 他に印象に残ったのは,看板女優・香取環の役の演じ分けの巧さ,『チコ』の工藤那美の可愛いさ,最も原形に近い形で上映されたという『引裂れた処女』の懐かしのパートカラー(基本はモノクロで,濡れ場になるとカラーになるというやつ.20数年振りに観た),といったところだろうか.いいもの見せてもらいました. 因みに,『やくざ監督』の編者で,今回の企画者である円尾敏郎は,独立プロ作品やピンク映画が「なかったもの」同然に扱われている状況(制作本数すらはっきりしない)に憤り,発掘と研究を続けているのだそうだ.こういう立派な人は世に絶対必要である.
2002/10/31 GESO
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