タイトル | : 2004/01/20■096 申年に生まれて |
記事No | : 196 |
投稿日 | : 2013/10/05(Sat) 14:34:59 |
投稿者 | : 管理人 |
[物乞い] ついこないだ寒い夜の帰途,家の近所で丸顔・色白・小柄な20歳前後(に見えたが分からない)の見知らぬ娘に呼び止められ,物乞いされた. 「上京して勤めた会社が潰れた.住む所もお金もない.今日も何も食べてない.お腹が空いてるからいくらでもいいからお金をください」てなことを訴えられる. でも彼女,身なりは貧しく見えない.ファー付きフードのパーカー着てて,暖かそうだし. 「いくら欲しいの」と尋ねると「500円でも1,000円でもいいからちょうだい」と言う. 寸借詐欺に遇って,貸した1,000円が帰ってこなかった経験は2度ばかりあるが,いずれの場合も相手の申し出は「貸してください」だった.「ちょうだい」ってのはなんだかなぁ.... 最初から返す気はないってことね? 「500円でも1,000円でも」って金額も気に食わない. そこの「牛丼太郎」に行けば200円で牛丼並が食えるんだし,コンビニのカップ麺ならもっと安いうえにお湯はタダだ. 俺も実は財布に千円札1枚しかなくて,ビンボーじゃ負けてないし,彼女の言ってることが本当で,取り敢えずメシ代が欲しいだけなら,駅前の交番へ行って事情を話せば1,000円までは貸してもらえるはず(あくまで「貸与」であるが). 結局,「駄目! こんな真似しない方がいいよ」と言い放って置き去りにしてしまった. 別に後悔はしていない.きっと誰かユルい人が助けてくれたことだろう.
[蟹の穴] 人と話していると,みんな自分の甲羅に似せて穴を掘ってるだけなんだなぁと痛感する瞬間がままある.何が同じ穴を掘らせているのか.養老センセイのいう「脳の癖」というやつ? 無論俺だって例外じゃないのだが,時々頭の中に「俯瞰せよ」との警告が響いて冷静になれる.誰からの警告なのか分からないが,少なくとも神とか上位自我といったものではないと思う.
[疲労宴] 友人の結婚お披露目パーティーってのに出席. 結婚という,しないで済むならそれに越したことはない愚行を進んで冒し,あまつさえ人とお金を集めて祝わせるなんてのは蛮行としか言いようがないのだが,そんなことを言うと捻くれていると見なされるようだ.俺は素直にそう思ってるのに. まぁ少数意見であることは認めて,今後は葬儀以外の儀式には努めて出ないようにしよう.
[暇はなくてもまた映画] 『ラスト・サムライ』○(一応)/『トゥルー・ロマンス』○(タランティーノは監督じゃなくて制作だが,主人公のおたくぶりにはかなり当人のキャラが投影されてる感じ)/『ロジャー&ミー』○(マイケル・ムーアの最初の標的はGMの会長だった.アポ無し突撃取材スタイルはこのデビュー作で既に確立されていたのだな.キャメラを持った吉田司みたい?)/『テノンハで売春していてバラバラ殺人にあった女子高生,まだテノンハにいる』×(日本のアングラ映画――福居ショウジンあたり――の影響大なのはいいとしても最初から怪作狙いで何とも小粒)/『茄子アンダルシアの夏』○(期待してなかった割に)/『木曜組曲』○(期待してなかった割に.恩田陸の原作未読で観たのは良かったのか悪かったのか.『8人の女たち』ならぬ「5人の女たち」によるほぼ密室劇だが『8人』よりも捻りあり.浅丘ルリ子と加藤登紀子の演技が凄いというか怖いっす)/『太陽を盗んだ男』○(映画・テレビ・DVDで都合4回は観てるところをみると俺はこの作品がかなり好きらしい.少なくとも近頃の邦画より余程.伊藤雄之輔(滑舌悪し)がバスジャックするエピソードだけでもかなりお腹一杯になれる)/『ミスティック・リバー』△(お話は肩透かしで釈然としないし長すぎるし後味悪い.ショーン・ペンをはじめとする俳優たちの暑苦しい演技合戦を楽しめればそれでいいんでしょう,きっと). 人気の『ラスト・サムライ』は,お金をたっぷりかけるだけじゃなく真摯に作られた映画であることは認める.それだけに,細部の妙なところ(虎,椰子の木,甲冑,富士山,路傍の仏像,桜etc.)が気になってしまう.リアルに作るんだったら徹底すれば良かったのに.そもそも武士道ってそんなに美しいもんかよ?――なんて疑問を持てばおしまいのお話だが. トム・クルーズは,滅び行く部族の村をフィールドワークしてるうちに原住民に感情移入してしまった文化人類学者の態で,つまりは『ダンス・ウィズ・ウルブス』なんかと同じ構造.俺は真田ファンだから観に行ったようなもんだけど,渡辺謙の方が圧倒的に活躍してたのはちと残念. 因みに,脇役の福本清三(顔は知ってても名前は知らなかった)が気になって,小田豊一聞き書き『どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役福本清三』を買ってしまった.この本はエエ話満載で○. これまたなぜか人気の『ミスティック・リバー』でへえっと思ったは,クリント・イーストウッドが監督のみならず主題曲の作曲もしてたところ.凡庸な曲でしたが. ただ,この作品にも「自分の家族を守るためなら何をやってもいい」みたいな思想が垣間見えて,辟易.
[ムーミン DVDスペシャル・ボックス] ポーランドとオーストリア合作のパペットアニメ.日本版アニメとはかなり趣が異なるが,こっちの方が原作に忠実,と作者のお墨付きらしい. 俺はむかーし原作を1,2冊読んだきりなので判断つかない. 全78話,まだ見終えていないが,殆どは実にのんきというか他愛のない物語だ. ムーミン谷の社会構造や生物層には不可解な点が無数にあるが,だらだら観てるとそんな疑問はどうでもいいという気分になる.映像も素朴な動きと色遣いがとてもスローライフですことよ. 基本的には,のほほんと楽しめばそれで良い作品だと思うが,管理主義に対する敵意剥き出しのエピソードが唐突に現れたりするので,なかなか油断ならない. トーヴェ・ヤンソンの生涯に関する知識はないが,不幸な幼年時代だったに違いないと直観する. あと,特筆すべきは,ナレーション及び全キャラの声を岸田今日子が一人で吹き替えしてること.最終的には,一人五十役以上演ってるんじゃなかろうか. ムーミンママって裸エプロンだったんだ,てことにも気付きました.
[ミヨリの森] 小田ひで次,久々の単行本.「ミステリーボニータ」連載作品だって? そこまでフォローできなんだ.... 「在郷のナウシカ」「黒いジブリ」とでも称したい和風ファンタジー. 黒田硫黄(←そんなにいいか?)のアシなんかしなくても食えるくらい売れて欲しい.エエもの描いてるんだから.
[黒い仏についてまだこんなに書くことがあるなんて思わなかった] 講談社ノベルス版『黒い仏』を未読の人には,今度出た講談社文庫版をお薦めしたい.解説の豊崎"早く単行本出しなよ"由美の,金井美恵子を模した――ということは,この人にしては珍しく女性の書き手ということを露わにした――解説が載っていてお得だから. 豊崎の言うとおりオリジナリティ信仰なんて確かに妄想だし,それを笑い飛ばす姿勢は正解だと思う. だけど,それでもなお『黒い仏』という作品が詰まらないと思うのは,この小説が余りにも己の方法論について明晰かつ自覚的すぎて鼻白むからだ.物語の破綻までも組み込んだ計算尽くな結構が,余剰/余情を感じさせないのだな. こういう秀才型よりも,喩え作品が破綻しようとも己の妄執に拘り続ける気違い/天才型のあの人だとか,どんなに博覧強記の天才を気取っても結局すごい努力家どまりのあの人みたいな作家の方が,まだ好きになれる. 俺はミステリに関しては結構旧守派みたいなのだった.
2004/01/20 GESO
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