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タイトル2005/01/26■109 入院前夜
記事No209
投稿日: 2013/10/05(Sat) 14:46:43
投稿者管理人
[格言]
 早熟な人は価値観が固まる時期も早いので,年を取った時点では頑迷な保守派になっている.

[ジャンプ連想]
 山手線で「浜松町」の構内アナウンスを耳にしたとき,不意に「マッスル・ビーチ」という言葉が頭に浮かんだ.一体これは何だろうと考えたが,「浜松町」→「浜マッチョ」→「マッスル・ビーチ」という連想だと思われる.中間の「浜マッチョ」が意識に上らなかったか,或いは瞬時に忘れられたのだろう.こういう「ジャンプ連想」は時々起こって,中間段階を遂に思い出せないこともある.
 因みに,松林のある海岸に裸の筋肉男たちが群れなしている光景は,余り好きくない.

[ばなな]
 名字まで平仮名表記になってますます馬鹿っぽいよしもとばななが,爆笑問題のテレビ番組にゲスト出演.「あたしは自分の経験したことしか書けないから(中略)80歳まで生きてその時自分が何を書くかに興味がある」などと頭の悪い発言.凄いなー想像力ゼロでも作家になれるんだ... ばななの本は「キッチン」の出だしの1行で早々と挫折して以来読んだことないが,読む必要もないことを再確認.真似する書き手が増えては迷惑なので,早く筆を折ることを希望する.

[享受]
?高橋悠治『音の静寂 静寂の音』
 著者としてはひさしぶりの紙の本なので
 買ってみた
 分かち書きの多用は ネット上なら
 読みやすくするための くふうといえるだろうが
 紙の本でやられると なんだか
 枚数かせぎみたいに感じてしまう
 「紙の本のいいところは
  値段がやすく ちいさく 軽い」
 うんぬん と書いているけれど
 この本は
 税込み2,520円で 四六版 ハードカバー だから
 やすくも ちいさくも 軽くも ない
 文庫で出せばよかったのに
 と かたちのことばかり言うのも 不当かもしれない
 この後は沈黙 そしてしばらくしてから また読みはじめる
 そうすることにしよう
△あっきう『あっきうのどこまで呑むの?』
 二ノ宮知子・浜口乃理子の後継者か?「4コマ界のよいどれプリンセス」の飲んだくれ漫画.本当に「酒のことしか考えていない」みたいなので,今挙げた3人の中では最強かも知れないダメダメさ....人の振り見て我が振り直したい.
○花輪和一『刑務所の前 2』
 中世と現代を往来する分類不能の花輪漫画,待望の2巻目.記憶力と亡母への憎悪は,相変わらず凄まじい.刑務所にぶち込まれたことについては反省の色なし.
○梨木香歩『ぐるりのこと』
 今日のどうしようもない「世界」の有り様について断定することをあくまで避けつつ無防備なまでの率直さをもって思索し続けた逡巡の軌跡.読み手もまた思わず襟を正して考えざるを得なくなる.美しい小説を書く作家の美しいエッセイ.絵本にまで手を伸ばすかどうか迷う...
△ランドル・ギャレット『魔術師が多すぎる』
 恥ずかしながら読み逃していたのを借りて読了.都筑道夫の解説(明解にして有用.)の言葉を借りれば「魔術文明に支配される現代と,そこに活躍する名探偵を描いたイフ・ワールド・テーマのSF本格推理小説」ということになる.日本なら山口雅也が書いてるような可能世界を舞台にしたミステリで,今日では別に珍しくはないが,60年代半ばに既に書かれていたという事実は,世に新しいものは何もないことをまたもや証するものなのだった.今時の目で見れば出てくる魔法は地味すぎて余り絵にならないけど,ハリポタみたいな派手な魔法よりももっともらしくてリアリティーがある.明治生まれの翻訳者による訳文は古臭い.
○榎並重行『危ない格言』
 格言というよりは箴言あるいは警句だと思うが,それは兎も角,ウブな読者にとっては「危険な」格言集かも知れないけれど,既に著作に馴染んだ者にとっては今更危険なものではなく,ラ・ロシュフコー及びニーチェ直系の,一見逆説的だが実はごく真っ当な格言集で,旧著『流行通行止め』(87)を彷彿させる.そんな内容よりもむしろ,前著まで「シゲユキ」と読ませていた名前を何で「ジュウコウ」に変えたんだろうとか,こんな売れそうもない本は発行者との縁が深い洋泉社でなければ出せなかっただろうなとか,かつての共作者三橋俊明の名が遂に全く出て来なくなったのは何かあったのだろうとか,下世話な事ばかりに思いが行くのだった.
 ところで,格言だろうと箴言だとうと警句だろうと,断言形を採る短い命題は,どうしたって偉そうに見えてしまう.最も控えめ(に見えて実は偉そう)なのは数学の公理であり,最も偉そう(に見えるが自覚なさそう)なのは宗教の教義であるが,その他の定理やら定義も,いずれかの類型である――というのも,既にして警句の類であるが.
△浦賀和宏『ファントムの夜明け』
 「あなたはこの哀しくも衝撃的な結末に耐えられるか」と帯で山田正紀が激賛してたけど,すみません,耐えられました.そう言えば,正紀様もまたオーバーな讃辞を贈る人だったっけ.クロネンバーグ『デッドゾーン』を想起させる超能力者の悲劇だが,この小説に出てくるのは予知能力者じゃなくて....なんて書くとネタバレだ.浦賀作品は幾つか読んだが,今のところ大当たりは無し.決して悪くはないのだが.
○喜国雅彦『本棚探偵の冒険』
 「余はいかにして古書蒐集家になりしか」って感じのエッセイ集.凝った函入りで著者検印付きで本気でレトロマニアしてた初版を買い逃して口惜しかったので,二刷めは買わず,文庫化を待って購入.文庫版のメリットは,安くて小さい点のみならず,ときにボーナストラックが付いてくることだ――付いてこないことの方が多いが.本書のボーナスは初版が出た後に「文藝春秋」に載った座談会.で,内容は――可笑しくも哀しいコレクターの性が活写されてて爆笑.キクニは文章も巧い.
△三津田信三『作者不詳』
 呪われた同人誌を巡るホラー・ミステリ.すっきり決着がつくミステリしか認めないほど狭量ではないが,この結末はあらかじめ定められた「逃げ」みたくて納得いかん.一連の作中作は悪くもないが,余り個性は感じられず.
◎荒俣宏・京極夏彦監修『大水木しげる展』(図録)
 展覧会場で売切れだったので注文していたのが,宅配便で届く.展覧会の図録というものは元々C/Pが高いとはいえ,充実した内容と250頁近いヴォリュームで2,500円(送料サービス)とはお買い得.勲章制度に批判的な水木さんが紫綬褒章を辞退しなかったのは如何なものかとも思うが,目くじら立てることでもないか.勲章伝達式には南方熊楠の扮装で出てるし.調布市が妖怪に占領されるお話は,ゲゲゲの鬼太郎「朧車」の巻であった.妖怪の首相「ぐわごぜ」の名前の由来が知りたい.
○萩尾望都『バルバラ異界 3』
 お話は難解ではないが複雑で大変説明しにくいが,モーさま本領発揮のSF.でも意外に早く完結しそうな予感.次巻当たりでクライマックスか?
○石持浅海『BG、あるいは死せるカイニス』
 「人類が全て女性として生まれ,後一部が男性化する」世界を舞台にしたSFミステリ.一歩誤ればトンデモになりそうだが,シリアスに描かれてて,まずまず.ジェンダーに関する問題意識など,西澤保彦を思わせなくもない.
○マイク・リー『人生は、時々晴れ』
 英国の貧しい労働者階級家族(複数)の運に見放された日常を坦々と描く地味〜な映画.辛気くさいなーと思って観ているうちにいつしか引き込まれいつしか観終わっていたのは,ひとえに演出の巧みさと,役者たちの余りにも自然な演技の賜物である.モチーフだけ採ってみればこのまま日本映画に移植しても全く違和感がないが,物語を担える役者の頭数は恐らく揃わないだろう.
△ジェレミー・レビン『ドンファン』
 ジョニー・デップが自分はドンファンであると妄想するサイコさん,マーロン・ブランド(太りすぎだよ!)が次第に彼の影響を受けて「ロマンチック」に狂い咲いていく老精神科医,という設定.普通ならコメディになりそうなのに妙にシリアス/オフビートのまま,現実とも妄想ともつかぬ/いいんだか悪いんだか分からん結末を迎える.出演者のギャラに金を掛けすぎて,映画自体はB級に終わったようだ.いい感じに老けたフェイ・ダナウェイを見れたのは嬉しい.
△湯浅政明『マインド・ゲーム』
 ロビン西原作の同名漫画(未読)の,2D,3D,実写取り混ぜた妄想ファンタジーアニメ.いろーんなものをパクっていろーんなことを試しまくってるという印象.評判いいようだし,海外でも受けそうだが,意外に感動薄かった.舞台がいかにも大阪臭いところや,主役の声が今田耕司で時々実写アニメになったりするところが,多分個人的に不快なんだと思う.偏見やけどね.
△中島哲也『下妻物語』
 これも期待した割に感動薄かった.いや,一見巫山戯ているが実は真面目な,良くできた青春映画というのは分かるのだけども.

[格言2]
 早熟な人は達観する時期が早いので,年を取った時点でも思考は柔軟なままだ.

[格言3〜]
 格言は全て正しい.

 格言は全て間違っている.

 格言は正しいこともあれば間違っていることもある.

 格言などどうでもいい.

2005/01/26 GESO