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タイトル2005/05/18■114 馬薫る五月
記事No214
投稿日: 2013/10/05(Sat) 16:17:38
投稿者管理人
 4月も終わり,もう5月後半じゃないですか.今年もまた馬と栗の匂う季節が到来.
 この間,世間では全く碌でもない事件が相次ぎ,ウンザリ.
 個人的には,一時期「よせばいいのに」(by敏いとうとハッピー&ブルー)がずっと頭の中でリピートしてて辟易したんだけど,いつの間にか聞こえなくなってて良かったよかった.
 ま,素直に良かったと思えるのは「ピアノの森」がモーニング誌上で復活したことぐらいのもんである.

[『ビバ☆オヤジ酒場』も新本で買ってしまった]
 『ヴィーナス・プラスX』とか『亡都七事件』とか『孤虫症』とか『聖者は海に還る』とか『ギブソン』とか『九月が永遠に続けば』とか『ベルカ、吠えないのか?』とか『破裂』とか『ユージニア』とか『黙の部屋』とか『背の眼』とか『誰のための綾織』とか(順不同),最近の本で読みたいのもいっぱいあるのだが,なかなか新本を買う余裕がない.
 と言いつつ,1年ちょっと前に出たkashiba@猟奇の鉄人『あなたは古本がやめられる』なんてのを新本屋で買ってしまったのは,立ち読みしてたら止まらなくなったからであって.
 いや全く,古書マニアってのは面白い.同じフェチでも何故かレコードマニアよりも愛らしく感じる.
 もっとも,いずれの人種にもなりたくはないから,反面教師として観察するだけなのだが.
 kashiba本を読んで分かったことは,どうやら「古本地獄への道はダブり本で敷き詰められている」らしいってことですね...
 ちなみに,三崎亜記『となり町戦争』は,早くも古本屋で購入できた.
 吉田司は本作が現実に「見えている(イラク戦争のような)戦争」を無視して「見えない戦争」を描いていることや,物語の展開が「想定内」で「可能性の文学」の要素が見られないことに疑義を提出している――吉田らしい野暮な正論である――けど,まぁ,良くも悪くも公務員的な想像力で描かれた公務員的な戦争小説という点が「新しい」んだから,これはこれでいいんじゃないでしょうか.文章も読むに堪えるし.
 ただし,今回は殆どアイディアの勝利と言っていいので,作者の実力が問われるのは次回作以降だと思う.

[連想式読書]
 夢をテーマにした筒井康隆編の旧いアンソロジー『夢探偵』を読んだ.
 武田百合子が「枕もとに鉛筆と紙を用意し」「いましがたの夢を書きとめ」る作業を「いく日か続けた。すると、へんにくたくたになってきて、こういうことをずっと続けていると、頭や体にはよくないように思った」と書いている.俺も全く同じ体験があり,同感.
 そこへいくと,5,500編もの『夢日記』をつけ続けた正木ひろしには驚嘆せざるを得ない.
 もっとも,全てを本人が記録した訳ではなく,書生に口述筆記させたものも多いようで,これは余人にはなかなか真似できないだろう.
 何にせよ,抄録ではなく全部読んでみたくなる.
 武田や正木の作品はエッセーだが,小説では,半村良『夢の底から来た男』と色川武大『雀』が本アンソロジー中の双璧.
 夢と言えば,俺は以前から「睡眠の役割の一つは記憶をデフラグすることであり,その副産物が「夢」なのではないか」と妄想していたのだが,それに近い学説が実際にあることを,浅暮三文『石の中の蜘蛛』という,これまた夢が頻出する作品を読んで,間接的に知った.
 この小説の主人公は,交通事故に遭ってから聴覚が異常に鋭くなり,更に「音」を視覚的に捉えられるようになる.
 作者の「五感シリーズ」3作目で,嗅覚ものの『カニスの血を嗣ぐ』と同様「ハードボイルドとファンタジーの融合」の試み.
 『カニス』の帯推薦文は山田正紀だったが,『石』文庫版解説もまた山田正紀で,正紀様は浅暮のことを結構買っているらしい.
 実際,両者には共通する資質があるような気がする.
 よくできた作品であっても手放しで「最高!」と賞賛はできない点も,似ている.
 浅暮のデビュー作『ダブ(エ)ストン街道』など,確かに奇妙な味のファンタジーで嫌いじゃないんだけど,大賞を授賞したメフィスト誌の英断を評価する半面,これではやはりファンタジー大賞は無理だろうな,とも思うのだった.
 「最高!」と言い切れないのは正紀様の最新作『ロシアン・ルーレット』と『神狩り2 リッパー』も同様で,いずれも意欲作だし,巧いし,詰まらない筈もないのだけれど,結末の「えー,これで終わりなの?」感は,やはりいつものとおりなのであった.
 それでも,『神狩り』の続編を漸く29年振りに読めた...という感慨はある.
 『神狩り2』の後書きに「もうぼくにはあまり時間がない」と書いてあるのは,恐らく98年に解離性大動脈瘤で殆ど死にかけた体験からきているのだろうけど,それでもこのエンタ小説の神様は,まだまだ書く気満々の様子.
 個人的には,1作のみで中断している「街シリーズ」の続きだとか,神性探偵・佐伯神一郎のその後だとかが,読みたい.
 死にかけた体験といえば,手塚治虫よりも手塚治虫らしい絵――極度に低俗化されたヴァージョンだが――を描く田中圭一の『死ぬかと思ったH』を,最新作『鬼堂龍太郎・その生き様 1』と共に購入.
 こういうくだらない本を新刊で買うのは,全く無駄遣いだとは思う.思うのだが,つい...
 前者は「Webやぎの目」の人気コーナーを下ネタ中心に漫画化したもの.頭の中はだんしちゅうがくせえモードだ.
 後者はビージャン誌連載中の不条理下ネタビジネスギャグ漫画?で,手塚系キャラと本宮ひろし系キャラが半々.いつ打切りになるかハラハラしながら読み続けていたが,めでたく1巻目が出た.このまま下品路線を突っ走って欲しい.
 手塚治虫と言えば,何でこいつに描かせるんだよ...という疑問百出の漫画家人選で作品の平均レヴェルを落とし続けているヤンチャン誌『ブラックジャック』トリビュートシリーズに,田中は未だ登場していない.
 誰を差し置いても彼に1本描かせるべきなのに...と思うくらいに,もはやパスティーシュの域を超えている感が――
 するのは奥泉光の『『吾輩は猫である』殺人事件』で,原典の続編として並読してもさほど違和感がない.見事な技である.
 奥泉のミステリを読むと,プロパーのミステリ作家――誰とは言わんが大勢さん――の文章の下手さ加減が逆照射されて,情けない気分になる...って,俺が情けながる義理はありませんでした.
 で,漱石つながりで柳広司『贋作『坊っちゃん』殺人事件』を読んだところ,これが意外にも傑作だった.
 意外にも,というのは,俺は柳作品はこれまで『新世界』しか読んでなくて,その出来が今一だったから.
 『贋作『坊っちゃん』』には,サンプリング化された原典が,言わば意味を逆転された形でそっくり畳み込まれているのだけれど,だからと言ってこっちを漱石本よりも先に読むのはいくら何でもまずいと思う――『占星術殺人事件』や『ムーン・クレサントの奇跡』を読むよりも先に,それらのトリックをパクった金田一少年シリーズを読むようなもので,誤って先に読んでしまったら,不幸.
 さて,『猫』『坊っちゃん』ときたら,次は水村早苗『續・明暗』と行きたいところであるが,これがなかなか見付からず,未読.
 というところで,連想は中断.
 連想式じゃない読書としては,水原秀策『サウスポー・キラー』,宮部みゆき『イコ-霧の城-』,小栗左多里&トニー・ラズロ『ダーリンの頭ン中』,鳥飼否宇『中空』,同『密林』,エドワード・ゴーリー『おぞましい二人』,『都筑道夫ひとり雑誌 第1号』等を,借りたり買ったりもらったりして読了.
 都筑道夫は,全集が出たら買い揃えたい作家ベスト3の一人(あとの二人は山風と正紀様)――多分,出ないことでしょうが.

[とここまで一気に書いたら疲れた]
 DVDと映画はそんなに観てない.
 サリー・ポッター『耳に残るは君の歌声』△,マジット・マジディ『運動靴と赤い金魚』△,同『少女の髪どめ』△,スチュワート・サッグ 『キス☆キス☆バン☆バン』○,ダミアン・オドネル『ぼくの国パパの国』どんな映画だったっけ?人種差別映画?,筒井武文『オーバードライヴ』×,TBS系スペシャル〜連ドラ『タイガー&ドラゴン』○(クドカンの意外にオーソドックスな一面が見られる),那須博之『デビルマン』×(でも『キャシャーン』よりマシでは),ガイ・リッチー 『スウェプト・アウェイ』×(『流されて』の低劣なリメイク),ロザンナ・アークエット『デブラ・ウィンガーを探して』×(インタビュー並べただけの安直なドキュメンタリ),ローション・マーシャル・サーバー『ドッジボール』○(お約束満載の正しい馬鹿映画.ただしエンドロールの自虐ギャグは蛇足),井上靖雄『隣人13号』△(無駄な長回しが多いしラストも甘いが,悪くない),ブラッド・シルバーリング『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』○(セット美術とエンドロールのアニメだけでも見応えあり),宮藤官九郎『真夜中の弥次さん喜多さん』○(出鱈目な話なのにリアルという力業).
 印象に残ってるのは,井上三太作品を「苛めっ子撲滅映画」化した『隣人13号』.
 何が痛いって小学生の苛めシーン.何が怖いって中村獅童の顔.何がハマってるって新井浩文と吉村由美のヤンキー演技.何が腑に落ちないって平川地一丁目のエンディング曲.

[古書マニア・蛇足]
 あの人たちの面白い点の一つは,実証を重んじる姿勢と妄想を重んじる姿勢が混在してるところ.
 例えば,版元に直接照会すればすぐに判明しそうな事柄でも,敢えてそれをせずに,あれこれ妄想して楽しむのだな.
 「音痴」には差別の響きがあるが,「書痴」には自慢してる響きがある.

[居酒屋ミニ情報]
 青砥の「鳥新」のホワイトボードには,「本日ないもの」が列挙されていて,珍しい.
 先月居酒屋研究で訪ねたときは「レバ刺 タン塩 ホウレン草 厚揚げ」が「ないもの」だった.

2005/05/18 GESO