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タイトル2005/06/15■115 JUNE BLIND
記事No215
投稿日: 2013/10/05(Sat) 16:18:16
投稿者管理人
[享楽的/連想式読書]
 倉橋由美子死去.いつ死んでもおかしくないとは思っていたが,俺にとっては別格の作家だったから,やっぱしガックリ.
 翻訳作品には興味がなかったので持ってないが,オリジナル作品は買い逃した『幻想絵画館』以外は全部持ってると思う――作品数少ないし.
 遺作はエッセイ『偏愛文学館』か... 最後は小説であって欲しかったなぁ.『星の王子さま』の新訳は別に読みたくないなー.換骨奪胎した由美子版だったら読みたいけど.
△高田里恵子『グロテスクな教養』
 グロテスクとは何か.
 春日武彦は「取り返しのつかない状態に対する無自覚さ」なんて,うまいこと言ってて座布団2枚(久坂部羊『廃用身』文庫版解説).
 それはさておき,本書は日本において「教養」がどのように扱われてきたのか,その社会的な意味を辿る「教養主義の言説史」.
 「教養」はオトコたちの独占物だったんだろうてなことぐらいは読まなくても想像がつくが,史料を扱う手さばきや意地悪な目線に斎藤美奈子に通じる小気味よさがあって,楽しめる.
 まぁ,こっちは学者だからなんぼかは実証的だし,斎藤の評価と対立する部分もあるんだけど,筆者の言いたいことはあとがきを読むだけでも充分伝わるんで,立ち読みで済ませても良かったかも知れない.
△久坂部羊『破裂』
 帯の推薦者(佳多山大地・中条省平・香山二三郎)が揃いも揃って平成の『白い巨塔』扱いしてるのはいかにも芸がないけど,実際そういうお話なんだから仕方ないか.
 プラスαの部分は,医療を国家で統制しようとする「厚生労働省のマキャベリ」の陰謀が絡んでくるところか.
 文章も水準いってるし,面白いんだけれど――雫井脩介『犯人に告ぐ』を読んだときも思ったんだが――なんか,良い小説を読んだというより,出来のいいシナリオを読んだという印象で,物足りないのだな.過不足無くまとまってるけど,余情も余剰もなくって.
 小説には,何かしら過剰な部分がなくちゃねぇ.
△キース・ラッセル・アブロウ『カプラー医師の奇妙な事件』
 このノンフィクションを読む限り,医療が危ないのは米国でも同様らしい.
 何度も患者を殺しておきながら野放し状態だった医師が,最後に逃れようのない殺人(轢き逃げ)の罪で捕まるのだけど,後半の裁判シーンが小説並みに面白いところは『白い巨塔』っぽい.半面,関係者インタビューを主とする前半はやや退屈.
 だが,本書のテーマは「精神異常」と「性格異常」との境界,「医学と法律の灰色地帯」という微妙な問題であって...(続く)
△北森鴻『冥府神の産声』
 冥府神には「アヌビス」のルビ.脳死と臓器移植の問題を扱った97年発表の医学ミステリ.へぇ北森ってこんなのも書いてたんだ,器用な作家だな.意外な拾い物.
…相原大輔『キルケーの毒草』
 割と新しい本で定価1,280円なのに古本屋で200円という値付けなのは何故なのか,読んで納得.真面目なのに才能がない,というのは,悲しいことである.それにしても,ひどい文章...
△よしながふみ『愛がなくても喰ってゆけます。』
 レストランガイドを兼ねたエッセイ漫画だが,この食い意地は『美味しんぼ』的蘊蓄に較べて遙かにマシ,むしろ爽やかである.作者を含む登場人物の人間関係も,虚実入り交じってる感じで隠微に面白い.
 紹介されてる店はいずれも美味そうだが,概ね根が張るので「自分にご褒美」状況でもない限りなかなか行けないのが,貧乏人には辛いところ.
○石川雅之『もやしもん 1』
 やっと出た第1巻.日本酒好き必読の,農芸化学者群像醸造幻想オフビートギャグ漫画.連載当初のタイトルは『農大物語』だったのに,農大からクレームでもついたんだろうか(『東京大学物語』はあんな内容なのにクレームついた話は聞かない).
△奥泉光『新・地底旅行』
 ぬけぬけと漱石の文体で書かれたジューヌ・ヴェルヌ.
 面白いことは面白いが,作者のファンタジー三部作の中で最も退屈なのは,語り手が凡庸すぎるという設定に起因するのかも知れん.
△石持浅海『扉は閉ざされたまま』
 いわゆる「美しいミステリ」.初の倒叙形式であるが,この人の作品は今のところ「許せる殺人・許せる犯人」を描いてる点で一貫している.
○ニーチェ『キリスト教は邪教です!』
 副題「現代語訳『アンチクリスト』」.適菜収による「超訳」だけど――原文は読めないので既存の邦訳と比較する限り――簡略化はあるが余分な追加はなく,キモは押さえてる感じ.
 ニーチェの耶蘇教批判が今もって有効なのは,西欧思想の支配原理が延々と耶蘇教であり続けているからだ.ましてや,9.11以降耶蘇教「原理主義」への傾倒著しい米国の惨状を見れば...
 耶蘇教の信徒だったら焚書にしたいところだろうが,是非味読のうえ,あの有害な畜群宗教から足を洗っていただきたいものである.遅きに失したとはいえ.
…残念だったのは,折角復活したふくしま政美の『エド☆デカ』(「週刊漫画」連載)が,絵も物語も今イチだったこと.江戸奇想ものとしては,赤名修『闇鍵師』(「漫画アクション」連載)の方がなんぼか面白い.
 てなわけで,今はジョージ・ソロス『グローバル資本主義の危機』を読んでるところ.105円(ブックオフ価格)で資本主義危機のメカニズムが分かるのであれば,大変お買い得である.

[浅草的芝居]
 木馬亭という場所と,看板女優主演のピンク映画併映という企画に惹かれて,水族館劇場公演『谷間の百合』を観る.
 例によって本番前に路上で始まる導入部は期待を持たせるものだったが,本編は余りにもベタで陳腐な救いのない人情劇で,ガッカリ.これなら下町でドサ芝居観る方がカタルシスある.役者は熱演してたし,それなりに巧いんだけれども.
 劇場を借りての公演ということで,いつもの凝った大道具を使わない,極めてシンプルな舞台だったことも,敗因.
 映画『愛欲温泉 美肌のぬめり』の方も,主演の葉月蛍のファン以外にとっては何の有り難みもない,工夫がないお話であった.残念.

[芝居的映画]
×三池崇史『夜叉ヶ池』
 劇場公演をDVD化したもの.
 三池演出は安ーい蜷川幸雄って感じ?映画だけ撮ってた方がいいと思う.
 武田真治・田畑智子・松田龍平らのヘボ芝居を観てると,テレビや映画における演技と舞台のそれとは全く別物である「べき」ことを再認識させられる.これは,いくらカメラアングルをテレビ風に工夫したところでカヴァーできるものではない.きたろうの演技が一番上手く見えるんじゃあねー...
 あ,丹波哲郎先生の演技に関しては,メディアが何であっても全く同じ.堂々とカンペで通すところは流石大物...なのか?
△ウェス・アンダーソン『ライフ・アクアティック』
 全編アンチクライマックスの脱力系海洋冒険映画.このダラダラした感じは慣れると心地良いものである.
 でも,キッチリできてる前作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の方が作品的には好き.

2005/06/15 GESO