タイトル | : 2010/04/30■178 黄金週間をぶっ飛ばせ |
記事No | : 259 |
投稿日 | : 2013/10/05(Sat) 21:18:06 |
投稿者 | : 管理人 |
△ティム・バートン『アリス・イン・ワンダーランド』(2010 米) 立体映画を観るのは『空飛ぶ十字剣』(1977)以来である.当時は赤青セロファン眼鏡を装着させられたが,今どきの3D眼鏡は一見普通の眼鏡なのに――多分偏光レンズを使っているのだろう――立体感は格段に増している.てくのろじいの進歩ですね.因みに一番手前に飛び出して見えるのは日本語字幕で,余り有り難みはない. それにしても,不自然な立体感に慣れるまでは――何にでも慣れるもんだ――かなり違和感があって疲れた.目に悪いことは確かな気がするし,こんなもん必要ないとも思うが,新たなAV商品として家電業界も立体テレビとか開発して売ろうとするんだろうな... 内容は他愛なかったけれど,成人したアリスが(当人はすっかり忘れてた)不思議の国を再訪するという設定は,今までありそうでなかったから,ちょっと新鮮だった.でも,バートン作品としては毒気は薄め.所詮ディズニー映画ということか.
○歌川国芳――奇と笑いの木版画(府中市美術館) やっぱり浮世絵ではこの人が一番面白いんじゃない?(猫贔屓に由来するところ大だが...)
×三谷幸喜脚本「わが家の歴史」(フジテレビ系) 開局50周年企画・3夜連続8時間放映・制作費12億円という大層な「ホームドラマ」. く,くだらん...ドラマというよりコントだろう,これじゃ.辛うじてドラマ的な部分も全て御都合主義丸出し.噴飯ものの無駄遣い大作である.三谷にはもう何も作らないで欲しい.
×阿久悠『殺人狂時代 ユリエ』(角川文庫 1985.親本 1984) オカルト小説ではあっても,オカルト・ミステリではない――謎が全く解明されずに終わってしまう――のに,第2回横溝正史賞を獲ったということが,ミステリである.当時の審査員が誰だったのか調べたら,石川喬司,大藪春彦,荻昌弘,土屋隆夫,中島河太郎という面々.皆さん阿久悠ファンだから賞をあげただけなんじゃないの?と疑う. 本作で面白かったのは,重要人物――主人公ではない――のユリエの歌手デビュー曲が「さだめのように川は流れる」だという設定.この曲は阿久悠作詞/彩木雅夫作曲の,実在する名曲だ(と思う)が,全くヒットせず,これがデビュー曲だった杏真理子という歌手は,ロサンジェルスで殺害されたという,忌まわしい歌でもある.この曲が,小説の中では大ヒットし,この歌を聞いて自殺する者も現れたという設定になっているのは,阿久悠の現実への「復讐」だろうか.
△詠坂雄二『リロ・グラ・シスタ』(カッパ・ノベルス 2007) 一見セカイ系の学園ハードボイルドだが,実は屈折した「本格」ミステリ.反則ぎりぎりだが許容範囲.
×同『電氣人間の虞』(光文社 2009) なんだ,ミステリーじゃないじゃん...肩すかしを食らった気分.作者の意図するところは分かるけれど好きにはなれない点を含めて,殊能将之『黒い仏』に似た読後感. 詠坂にはまだ3冊しか著作はないが,今のところ『遠海事件』がベストだろう.
×東川篤哉『館島』(創元推理文庫 2008.親本 2005) ミステリファンの間では好評だったらしいので読んでみた.今更,嵐の孤島に建つ奇矯な「館」での連続殺人なんてベタベタな設定は,余程自信がなければできない筈だが... 俺でも早々に解けた「大トリック」は如何なものか――「館」の構造がシンプルすぎるから,分かっちゃうよ.一部には受けてるらしい「ユーモア」のセンスにも,ちょっとついて行けない...
○ロアルド・ダール『オズワルド叔父さん』(ハヤカワ・ミステリ文庫 1991.原著 1979) 艶笑悪漢小説.主人公は好色で金銭欲が強く無道徳でスノッブで小賢しい――となると普通なら凄く嫌な奴なのだが,全然そう感じさせないキャラに仕上げているところが,ダールの巧いところ.終わり近くで筒井康隆の某短編(多分初出1971)と同じエピソードが出てくるけど,ダールが真似したとは思えないから,共通の実体験に基づくものだと想像する(と可笑しい).「壮大なホラ話の楽しさが全篇に横溢する大人の童話」という惹句はそのとおりで,田村隆一も楽しみながら訳している感じ.お堅い読者には向かないけど.
○同『王女マメーリア』(ハヤカワ・ミステリ文庫 1999.親本1990) 日本オリジナル編集のアンソロジー.辛辣な作品が多い中にホノボノしたものも交えてあってバランスがよく,お得感あり.
◎同『幽霊物語』(ハヤカワ・ミステリ文庫 1988.原著 1983) この14編を選ぶために749編を読破したという入れ込みよう/モチーフがいかに古くても文章力によって新しいものとして蘇ることは可能という実例を選び抜く鑑識眼/自作を入れなかった謙虚さと冷静さ...といった諸点で,ダールはアンソロジストとしても尊敬に価する.定番のレ・ファニュやマリオン・クロフォードを敢えて外していないのは,良いものは良いとする見識によるものだろう.ローズマリー・ティンバリー,A.M.バレイジ,ロバート・エイクマンといった未知の作家の作品や,刺激的な「まえがき」を読めただけでも収穫. 怪談にはうるさい都筑道夫が本アンソロジーについて言及していないか調べたところ,『読ホリデイ 上巻』に,収録作品の一つに触れた評があった.「ヨナス・リーというノルウェー作家の作品が入っていて、これは珍しい。「エリアスとドラウグ」という短編で、ダールも序文で激賞している。たしかに迫力があって、大した作家らしいが、怪談としては、ごく常識的なものだ。ありふれたストーリイでも、筆力で生きる、という見本だろう。」.また,同書の別の箇所でダールその人を評して「彼こそ文体の作家といっていいだろう。ストーリイはたいしたこともないのに、見事な文体で読ませてしまう作品が、いくつもある。」.いささか失礼な評ではあるが,同感.そもそも,都筑自身が「文体の作家」なんだけどね.
○ジョセフィン・テイ『時の娘』(ハヤカワ・ミステリ文庫 1977.原著 1951) 今更ながら読んだ歴史+安楽椅子ミステリの古典.英国史に疎くてもワクワクしながら読了できた.「正しい歴史認識とは何か」についても考えさせられること大.訳者は『弁護側の証人』の小泉喜美子だったんですね.
○佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー携書 2010) 出版(と音楽)の現状分析と近未来予測の書として――内容には賛同できる点が多いが異議のある部分もある――正に今読まれるべき本.
漫画では非常に映画的な高浜寛『トゥー・エスプレッソ』(大田出版 2010),将棋を知らなくてもハマれる羽海野チカ『3月のライオン 4』(白泉社 2010),微苦笑お風呂漫画ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ 1』(エンターブレイン 2010),ホラー漫画の巧さに感心した三宅乱丈『ユーレイ窓』(大田出版 2009)等.いずれも大変面白くて○.
2010.04.30 GESO
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