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タイトル2010/08/25■183 アル・クーパー効果
記事No264
投稿日: 2013/10/05(Sat) 21:23:19
投稿者管理人
 突然アル・クーパーが聞きたくなり,三十数年振りに『アイ・スタンド・アローン』『紐育市』『赤心の歌』を続けて聴く.
 偶には此んなストレートなもんも良いな,という印象をその後二週間ほど引き摺る.

△「言葉の森に棲む。」(5/20 渋谷 7th Floor)
 弾き語り三人衆.
 outoside yoshino(刺々し/わざとらし/すぎる無頼振りが不快)・豊田道倫(四十男の歌ものとして素朴すぎるが和めたのはアル・クーパー効果)・倉地久美夫(この中では別格.数曲のアレンジがまた変わった).

○「すでにそこにあるもの」(5/21 横浜 BBストリート)
 これも弾き語り三人衆+前座.
 佐々木犬(「Mother Sky」のカヴァーもあったが総じて没個性)・日比谷カタン(超絶ギター漫談・オペレッタ風.巧さが鼻につく)・島崎智子(関西に転生した矢野顕子がブギウギピアノで身も蓋もない日常を歌ってる風.素朴さに耐えられたのはアル・クーパー効果)・倉地久美夫(天然という点でカタンと似て非なる芸風).
 前日のライヴよりはバランス良い組合せ.

○「水木しげる米寿記念 ゲゲゲ展」(銀座 松屋)
 絶えることのない水木ブームだが,今回は2005年の「大水木しげる展」以来の大規模な展覧会.またもや文字どおり老若男女のファンで会場は超満員.
 サスガ松屋の客と言うべきか,キャラクター・グッズ――総じて高価――を山のように買い込むお金持ちが大勢.一体8万円〜10万円するブロンズ像を買ってる人も見た.
 今回の展示は,「河童の三平」「墓場の/ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」の三作品の原画――貸本漫画時代の原画は残っていないため複製で,あとはマガジン,サンデー,ジャンプの原画――と,一点物の妖怪画の原画――モノクロの原画と,その精密コピーに彩色したものを,上下に並置――に絞られていたけれど,カラー扉絵の綺麗さに見蕩れ,緻密な齣とスカスカの齣の落差にクラクラし...見応えは充分.
 掲載媒体を変えて何度かリライトした作品の,共通箇所の比較展示の試みなどもあって,面白かった.

○寵物先生『虚擬街頭漂流記』(文藝春秋 2010.原著 2009)
 時は2020年.実在する都市と,その12年前の姿を再現した仮想都市――2014年の大地震以来寂れ果てた繁華街を,行政の肝煎りで仮想空間上に復興しようと計画されたもの――に於いて並行して起きた殺人事件を巡るSFミステリ.台湾の皇冠文化出版有限公司主催 第1回島田荘司推理小説賞受賞作.
 台湾の作家――ミスター・ベッツと読むらしい――の作品だが,全く違和感を覚えることなく一気に読める.日本人だったら西澤保彦あたりが書きそうな物語.
 島田が提唱する「21世紀本格」なる概念には余りピンとこないが,ハイテク社会に抗しうるエンタテインメントとしてのミステリという意味に取るなら,本作は充分成功している.
 ただし,感動の質は良くも悪くもベタで,新しい革袋に古い酒を入れたという印象は否めない.

○愛川晶『うまや怪談』(原書房 2009)
 「神田紅梅亭寄席物帳」シリーズ3作目.中編3作を収録.
 もはや珍しくもない落語ミステリの中で本作が一頭地を抜いている点は,一見事件らしい事件も起きないのに,いつの間にか謎解きミステリとして成立させている,見事な伏線の張り方.
 蘊蓄をひけらかすでもなく,素人に擦り寄るでもなく,落語の面白さをいかに分かりやすく一般読者に伝えるかに腐心する姿勢にも好感が持てる.
 紅梅亭は俺の通勤経路の途中にあるという設定だが,現実のJR神田駅西口通りには勿論そんな粋なものは存在しない.
 実際の神田は,セブンイレブンもローソンも富士そばもマックでさえも潰れてしまうほど商店の生き残り競争がハードな,ベタなサラリーマン街である.

○日本橋ヨヲコ『少女ファイト 7』(講談社 2010)
 熱血青春スポーツ漫画の約束事をしっかり押さえつつマニアックな読者も萌えさせる巧緻な作品.『イブニング』に中弛みなく連載中.

○ブルボン小林『マンガホニャララ』(文藝春秋 2010)
 漫画評論ならぬマンガ語り.軽いけど鋭い,鋭いけど楽しい,楽しいけど深い.
 「狩撫麻礼の描きたいのは「逸脱」それ自体なのだ」だとか,「様式で衝撃を与えることが悪いわけではないが、浦沢直樹のそれは「うますぎる」」だとか,思わず膝を打つ指摘多数.
 漫画への愛が溢れ出して読者に感染り,未読の作品を読みたくなってしまうガイドブック.

△北村薫『秋の花』(創元推理文庫 1997.親本 1991)
 心洗われる「良い」作品だけど,俺には上品すぎてちょっと嫌...

△山田正紀『人間競馬 悪魔のギャンブル』(角川ホラー文庫 2010)
 センスを疑いたくなるタイトルだが,内容はそのまんまで,4体のガーゴイルたちが数人の男女――それぞれ特殊能力を持つ犯罪者――に殺し合いをさせ,誰が生き残るかを賭けるというお話.
 ダークファンタジーというよりもブラックユーモア小説で,北村薫に危うく綺麗にされかけたココロが汚し直されてホッとした.
 殺し合いのシーンが意外に淡泊なのが物足りないけれど,近年の正紀作品の中では割と面白い方.
 でも,こうした変な書き下ろしより,未完のまま放置中の諸作品の続きをとっとと出して欲しい.

○乾くるみ『クラリネット症候群』(徳間文庫 2008.徳間デュアル文庫『マリオネット症候群』2001を増補)
 人格転移ものの『マリオネット症候群』と,暗号解読もの(?)の表題作の2編を収録.
 一見無茶苦茶な設定なのに作品内の論理性は保たれているという点を含めて,西澤保彦・筒井康隆の諸作品が想起されるが,両者以上のエスカレート振りを見せる奇想に,ちょっと吃驚.
 乾くるみってこんなに面白かったっけ.

○荻原魚雷『活字と自活』(本の雑誌社 2010)
 高円寺に住んで21年目(近場での引越し多数)のライターの貧乏読書エッセイ.
 俺も高円寺には19年間住んでたから,中央線の「魔」はある程度理解できるけれど...
 貧乏も悪くない/貧乏だけは嫌だ という相反する気持ちに引き裂かれて,複雑な読後感.でも良い本である.

△セバスチャン・フィツェック『治療島』(柏書房 2007.原著 2006)
 ベルリン生まれ/在住の作家のデビュー作.
 前から気になっていたが,ブクォーフで200円で見付けたので,購入.
 11歳で失踪した愛娘を探し続けて気が変になった作家が,数年後,小島の別荘で静養を始めてから次々に異変が起きる.収拾がつきそうもない謎の連鎖,娘は生きているのか死んでいるのか?
 確かに,読み始めると止まらなくなるサイコ・ミステリだが,話の引っ張り方がかなりあざといし,読了後「ルール違反じゃないの?」という疑念も生じる.読み返せば確かに伏線はあちこちに張ってあるから違反とまでは言えないが,あまり気持ちよく騙された気はしない.
 まぁ,二作目も読んでみたいけど...

○辻真先『改訂・受験殺人事件』(創元推理文庫 2004.初版 ソノラマ文庫 1977)
 いわゆる「超犯人シリーズ」三部作の最終巻.
 今回は「犯人」の端書きに始まり,「犯人」の後書きで終わる.毎回とんでもない技を仕掛けてくるものだ.
 三作とも昔,確か美川氏からソノラマ文庫版を借りて読んだことがあるが,ブクォーフの105円棚で見掛ける都度購入してたら,揃ってしまった.
 内容はすっかり忘れてたんで,初読のように楽しめた――惚けの効用である.
 外連は余り好きじゃないんだが,これだけサービス精神旺盛だと許せます.
 あと,見掛けは軟派でも本質は硬派のミステリという,東京流れ者みたいな所も,辻ミステリの美点であろう.

△有栖川有栖『乱鴉の島』(講談社ノベルス 2008.親本 2006)
 「今さらながら驚いたのは、普通ならば存分に書き込むであろう場面が本格ミステリでは見事なまでに語られず、本来はそこから書き始めるべきであろう起点が隠蔽される、ということ。そういう書き方をするものなのだ。私はその特異さの中に魅力を見いだすが、「だからミステリは好きになれない」という小説好きの気持ちも理解できる。」と作者は書いているが,全くそのとおりだと思う.
 割と地味な「孤島もの」で,そこそこ面白いけれど,最後に明かされる動機は唐突で,それまで丹念に読んできてもちょっと推理できないんじゃないの? どうもすっきりしないなぁ...

○JOJO広重・美川俊治・JUNKO・コサカイフミオ・野間易通『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』(K&Bパブリッシャーズ 2010)
 昨年結成30年を迎えた非常階段の評伝.
 ファンへの贈り物という性格の本だが,日本のロック史研究者にとっても,特に関西の地下シーンの歴史を辿る上で貴重な資料となるだろう.
 個人的感想としては,「一期一会」「案ずるより産むが易し」「継続は力なり」といった凡庸な成句が思い浮かぶばかりで情けないが...
 バンドとしての非常階段の功績は,本来評価基準が無い「ノイズ」に初めてエンタテインメントとしての価値を付加し得たこと,あるいは,ロック・ライヴという器に楽音の代わりにノイズを盛りつけてパッケージ・ショーとして成立させ得たことであり,これはJOJO広重の商才の賜と言えるだろう.
 非常階段前期における汚物塗れのオルギアも,一見ヘルマン・ニッチェやオットー・ミュールら往年のアクショニストを思わせるけれども,似て非なるもので,それはアート〜パフォーマンスの文脈にはなく,子供の泥んこ遊びやプロレスのパフォーマンスバトルに近いもの――過激であってもぎりぎりエンターテインメントの範疇に入るものである.

○瀧波ユカリ『臨死!!江古田ちゃん 5』(講談社アフタヌーンKC 2010)
 早や5巻目.相変わらずエグ面白い.
 江古田ちゃんはツイッターでもやっぱり江古田ちゃんであった(http://twitter.com/ekoda_chang).

△入江悠『SR サイタマノラッパー』(日 2009)
 『8 Mile』への埼玉からの回答――といった映画では全くなかった.
 日本の田舎で「音楽」するワカモノたちの鬱屈した日常を描いた痛い青春映画として,ごく類型的.
 ネタの音楽がラップなのは,それが若干イマ風であるからに過ぎず,ジャズであろうとフォークであろうとGSであろうとロックであろうとパンクであろうと,背景となる時代と場所に寄り添ってさえいれば,どんなジャンルでも一向に構わないというか,交換可能と思われる.
 では,ノイズでこうした映画――例えば虚構としての『非常階段物語』だとか――を作ったら少しは違うだろうか? 結局似たような「感動映画」になってしまうだろうな...

○「Bravo-SL」(FireStone製 2010年3月発売開始)
 製品レビュー...になるかしら.
 DATウォークマンが死にかけてるんで,今のうちに録音物をHDに移しておこうと思ってから,早や数年.
 今一歩踏み切れなかったのは,何度か試したけどデジタルtoデジタルのコピーがうまくいかない――いわゆるジッターやグリッチといったノイズが発生する――からである.
 DATのサンプリング・レートが録音によりまちまちなことや,DATと,PCのオーディオ・インターフェイス(EDIROL UA-4FX)との相性が悪いことが原因と思われる.
 そこで,今までは,どうしてもDATから取り込みたい場合は,ウォークマンのRCA端子からアナログtoデジタルでHDにコピーしていた――なんか無駄に音質を劣化させてるなぁと思いつつ.
 そんな折り,「Bravo-SL」という製品を偶然ネットで見付けたのでした.
 それは「USB入力、同軸入力、光入力の3種類の異なった入力信号を、最大24bit/96kHzフォーマットで受け取り、それぞれのジッターを除去しお望みのフォーマットに変換して出力」するデジタル・プロセッサーだという.
 レビュアー諸氏の評価が高く,この種の機器としては非常に安いので,その中でも最安値だった楽天市場で思い切って購入した(送料込み19,800円).
 で,実際使ってみたところ,本機を通すと音が良くなる(気がする)!
 原理が謎なので,正に「魔法の箱」状態なんですが...
 手持ちのDATは100本くらいで,全部で200時間以上になる.作業が終わるまでにウォークマンが死なないことを祈るのみ.
 DATが終わったら,次はMDを取り込まねばならない.何枚あるか怖くて数えてないけれど,DATより多いことは確か.こちらも,光出力端子付きのMDレコーダーが途中で壊れないことを祈る.
 嗚呼,面倒臭え.
 でも自業自得.

2010.08.25 GESO