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タイトル2011/12/31■192 逝く年狂う年
記事No273
投稿日: 2013/10/05(Sat) 21:33:27
投稿者管理人
 嗚呼もう今年も終わる.
 前回アップしたのは7月だったか... その後何もまとめる気にならず,時々メモするのみだった.
 まぁそんな年だったということで,書き散らしたメモをそのまま並べて終えることにしよう.

○皆川博子『花闇』(中央公論社 1987)
 その凄まじい役者生涯に惹かれてか,澤村田之助を題材にした作品は結構あるようだ.小説では北森鴻『狂乱廿四孝』,松井今朝子「心残して」,漫画では村上もとか『JIN−仁』等.本作もその一つ.皆川作品としては幻想味が薄くやや地味だが,その分リアルで,松井の時代小説に近い味わい.役者の立ち居振舞いが眼前に浮かんでくる芝居の描写は流石である.山本昌代『江戸役者異聞』や南條範夫『三世沢村田之助―小よし聞書』もそのうち読みたい.

△本田達男『まむしの兄弟 お礼参り』(1971 日)
 1作目と間違えて2作目のDVDを観てしまった.涙あり笑いありの青春学園ドラマのヤクザ版みたい.違うのは主役がチンピラ(劣等生に相当)の菅原文太と川地民夫であること.古き良きヤクザ(優等生に相当)といった感じの安藤昇は本物の迫力.古いヤクザが経済ヤクザに移行してきた時代背景が見えるような見えないような.

Slapp Happyの『絶望一直線』を久し振りに聞き返したら,"Bad Alchemy"がまるで"Kew.Rhone"の中の1曲みたいに聞こえた.

○吉田秋生『海街diary 4 帰れない ふたり』(小学館フラワーズコミックス 2011)
○清野とおる『東京都北区赤羽 7』((Bbmfマガジン 2011)
 海街は実にゆっくりしたペースで,赤羽は凄いハイペースで出ている.いずれも永遠に続いて欲しいシリーズ.

△藤沢周平他『時代小説最前線 T』(新潮社 1994)
 すれっからしにはあんまり普通に巧い小説ばかりで退屈だ.

△ステファニー・ピントフ『邪悪』(ハヤカワ・ミステリ文庫 2011.原著 2009)
 刑事と犯罪学者のコンビが,猟奇殺人に挑む...という設定はありがちだが,設定を1905年のニューヨーク郊外にした点が本作のミソ.日本は明治38年,バルチック艦隊を撃滅〜ポーツマス条約締結の年であり,本作の事件が起こった――虚構だから起こっちゃいないんですけどね――時期は,伊藤博文が特派大使として大韓帝国へ派遣された頃である.謎解きとしては大したことはないが,ノスタルジックな味わいは良い.

○酒見賢一『陋巷にあり』全13巻(新潮文庫 1992〜2002,親本 1988〜2000)
 漸く全巻を(中古で)揃えたので,最初から読み始める.1巻目は意外に坦々としてたが,2巻目から徐々に娯楽性が高くなってくる.ときに山風忍法帖ものを思わせる戦闘場面は読者サービスでもあるが,作者も楽しんで書いてる感じ.作者自ら公言するとおり,『孔子暗黒伝』の影響は大きいので――主人公は孔子よりもむしろ顔回だが――諸星の絵を頭に描きながら読むと面白さが更に増す.まだ5巻目.
 ...と書いてから2か月.読み終えるのが惜しかったが読了.ダレ場もあったけど,全体として凄い小説を読んだ!という満足感に浸っている.けれど,本作は孔子が顔回らと共に魯を出て放浪の旅に向かう場面で終わっているので,やはり続編が読みたくなる.諸星『西遊妖猿伝』の新章が11年の歳月を経て再開したように,いつか再開して欲しい――そう言えば『陋巷にあり』も完結してから今年で11年目だからそろそろ... でも,著者は今『泣き虫弱虫諸葛孔明』で手一杯なのだろうな.

△ジェームズ・ガン『スーパー!』(2010 米)
 中高年向けの『キックアス』といったところ.欲求不満のまま頭を吹き飛ばされてしまうボルティー・ガール(エレン・ペイジ)が不憫...

△米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』(新潮社 2008)
 連作短編ミステリ.いずれも名家の娘やそこに仕えるメイドが出て来る浮世離れした設定である.この作家は初めて読んだが,かなりダーク.

○カミラ・レックバリ『悪童』(集英社文庫 2011.原著 2005)
 エリカ&パトリック事件簿の3作目.今回は陰惨な幼女殺人.小説としては古いスタイルだが,面白いからOK.池上冬樹が言うとおり,ミステリとしては冗長で,群像劇として楽しむべき作品だと思う.暗澹たる人生を送る人物や無茶苦茶性格が悪い人物にも感情移入させてしまう筆力は凄い.

○桐野夏生『対論集 発火点』(文藝春秋 2009)
 対論というより対談.相手は松浦理英子・皆川博子・林真理子・斎藤環・重松清・小池真理子・柳美里・星野智幸・佐藤優・坂東眞砂子・原武史・西川美和.面白さは対談相手次第だが,松浦・皆川・柳・佐藤・板東・西村との対話は,創作論が窺えて興味深い.林との対談は,本当は嫌い合っているのを隠しつつ表面上は和やか,という感じがスリリング.小池とはエロ話に終始.

○堀江敏幸『いつか王子駅で』(新潮文庫 2006.親本 2001)
 東京都北区王子に暮らす「私」の日常を坦々と描いた私小説ふうでもあり随筆ふうでもある長編.ゆったりしたテンポに乗れさえすれば楽しめる――というか,作者と共に物思うことができる.

△辺見庸『もの食う人びと』(角川文庫 1997.親本 共同通信社 1994)

○ジュリオ・マンフレドニア『人生、ここにあり!』(2008 伊)

△ゲイル・キャリガー『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』(早川書房 2011.原著 2009)
△同『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う』(早川書房 2011.原著 2010)
 人類と異界族(人狼や吸血鬼)が共存するパラレル・ヴィクトリア朝英国を舞台にしたスティーム・パンク? ラノベ乗りで楽しめる.

○木内一裕『藁の楯』(講談社文庫 2007.親本 2004)
 『BE-BOP-HIGHSCHOOL』には興味なかったけど,Vシネ初監督作品『カルロス』を観て,きうちかずひろという漫画家は侮れないと思ったのは随分昔のこと.本名の表記に変えて小説家に転じた第1作が本作.孫娘を惨殺された資産家が,犯人の首に巨額の賞金を賭ける.いつ誰が襲ってくるか分からない中,福岡から東京までの移送を命じられた5人の警察官たち...ベタな設定で非常に読みやすく映画的――すぎむらしんいちに言わせるとジョン・フランハイマーふう.最近はベタなものでも全く受け容れられるようになったので,楽しめた.漫画家出身の小説家としての実力は山上龍彦よりも上みたいだから,山たつみたいに漫画に戻って来ることはないだろう.本当は映画監督をやりたいのだろうけど.

○同『水の中の犬』(講談社文庫 2010.親本 2007)
 確実に腕を上げた2作目は中編3話から成る連作.「情報屋がいて、ヤクザがいて、警官と麻薬常習者がいる。誰もがどこかで見たことのある物語にもかかわらず、ここでしか読めない、ま新しい感触が持続する」(吉田大介の解説).確かに.ハードボイルドの美学が思い切った結末を用意し,次作への期待を高める.

○同『アウト&アウト』(講談社文庫 2011.親本 2009)
 3作目は2作目の続編のように見えて全く独立した作品.前作同様オーソドックスなハードボイルド仕様で始まるが,プロットがどんどん捩れていって展開の予測は小気味よく裏切られる.あんまり面白かったので,最新作『キッド』をAmazonに注文.

○同『キッド』(講談社 2010)
 注文したら翌日届いた「本当は怖いAmazon」.木内の最新作は,今までで最もエンタメ度が高い,バイオレントな原宏一という感じの痛快作.今回は刑事(くずれ)やヤクザくずれではなくBE-BOP系の20歳のアンチャンが主人公の巻き込まれ型サスペンスで,確かに読み出したら止まらず電車内〜飲み屋で一気に読了.このレヴェルの作品を年に1冊出してくれたら文句はない.→最新作『デッドボール』が出た.来年買おう.

○赤江瀑『蝶の骨』(徳間文庫 1981.親本 1978)
 甘美な破滅への道をひた走る女性が主人公の官能小説.解説の体裁を放棄した皆川博子の賛辞が熱い.熱すぎる.

○辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』(講談社ノベルス 2004)
 最新作『水底フェスタ』を読みたいと思ったが,このデビュー作を長年積ん読してたのを思い出して,先にした.密室化した校舎に閉じ込められた高校生8人...『密閉教室』や『雪密室』が想起される.西澤保彦ほど複雑ではないがどうも設定は超常的なようである.青春ミステリを甘酸っぱく感じるには年を取りすぎたな...などと思いつつ読んで上巻の終わりにきたら「中巻に続く」の文字が! あれ,上下巻完結じゃなかったっけ? と慌ててAmazonに中巻を注文したら二日後に届く.早えー!

○マーク・トウェイン『不思議な少年』(岩波文庫 1969.原著 1916)
○『マーク・トウエン短編集』(新潮文庫 1961.原作 1860〜1899頃)
 ハックルベリ・フィンやトム・ソーヤーの明るさとは対象的な,ペシミズムに満ちた辛辣な作品群.晩年の筆者は相当な人間嫌いだったという.トウェインの不思議な少年に較べて山下和美版「不思議な少年」の何と優しいことか.

○皆川博子『光の廃墟』(文春文庫 1998.親本 1978)
 最初期,3作目の長編.マサダの遺跡発掘キャンプを舞台にしたミステリ.デビュー間もない頃からこの完成度の高さだったのかと感服.

○同『開かせていただき光栄です』(早川書房 2011)
 著者81歳の最新作.創作意欲が全然衰えてなくて素晴らしい.18世紀英国を舞台にした「解剖学」ミステリで,ダークコメディの要素もある傑作じゃないですか! 英国で映画化してくれないかな.解剖教室の弟子たち5人が歌う「解剖ソング」を聞いてみたい.

○島田荘司『帝都衛星軌道』(講談社 2006)
 島田作品で一番好きなのは『斜め屋敷の犯罪』と『奇想、天を動かす』だが,今回の表題作は後者に及ばぬまでもそれを想起させる「本格推理」と「社会派推理」(懐かしい)の融合作.身代金受渡し場所を山手線内に指定するという意表を突いた誘拐事件から始まる,Who/Why/Howダニットのバランスがいい感じ.長編としては短めのそれを前後編に分け,間に「ジャングルの虫たち」という独立した中編が挟まる構成.「ジャングル」はホームレスを語り手にしたかなり重苦しい非ミステリ作品.

○連城三紀彦『一夜の櫛』(新潮文庫 1988)
○同『夜のない窓』(文春文庫 1993.親本 1990)

○イ・ジョンボム『アジョシ』(韓国 2010)
 アジョシは「おじさん」って意味なのか.殺し屋と少女の交流は『レオン』を想起させるが,こっちの方がより血腥い.ウォンビンは確かに格好いい.アクションの切れの良さでは,日本映画は韓国映画に敵わんな.

○エミール・クストリッツァ『アンダーグラウンド』(1995 仏・独・洪牙利)
 デジタルリマスター版を初鑑賞.1941年〜現代に至る旧ユーゴスラヴィアの歴史を虚実交えて描いた大群像劇.確かに映画史に残る傑作であろう,これは.

△富田克也『サウダーヂ』(2010 日)
 成る程サウダーヂとは山王団地の聞き違いであったか... ハッピーエンドも嘘臭い希望も描かないリアルさという点で,正に今観るべき映画.だが,全ての伏線が綺麗に回収されなくてもいいにせよ,もう少し回収すれば良かったのに,という物語的不満は残る(日輪水のこととか).意図的にカタルシスを排したのだと解釈すればそれで良いとしても,最後のカタストロフィも中途半端な感じで,モヤモヤが残る.因みに,胡散臭い衆議院議員役で出演している宮台真司は,太って田中康夫に似てきた.

○戌井昭人編『深沢七郎コレクション 流』『同 転』(ちくま文庫 2010)
 収録作品の選択には文句ないが,発表年と年譜くらいの資料は付けて欲しかった.

○望月諒子『ハイパープラジア』(徳間書店 2008)
 『パラサイト・イヴ』や『仁』を想起させる医療SF.長編としては短めで,内容も地味だが,先行作に劣らぬ隠れた傑作だと思う.

○同『大絵画展』(光文社 2011)
 コンゲームもの.プロデビューしてるのに「日本ミステリー文学大賞新人賞」に応募して優勝をもぎ取っちゃうところは凄い(ちょっと狡い気もするけど).

△清水義範『幸福の軛』(幻冬舎 2003)
 人間描写に今ひとつ深みがないのね.

○連城三紀彦『一夜の櫛』(新潮文庫 1988)

△蒼井上鷹『バツリスト』(祥伝社 1910)

○三隅研次『とむらい師たち』(1968 大映)
 久し振りに映画館で観直した野坂昭如原作・勝新版『おくりびと』(笑).映画的には破綻してる気もするけど,それでもこっちの方がずっと良い.ラストシーンの廃墟(水爆戦?後の世界)に,3/11を想起せざるを得なかった.

○水生大海『少女たちの羅針盤』(原書房 2009)
 映画化されてるとか?

○服部正『影よ踊れ』(東京創元社 1994)
 魔界のホームズ.結構罰当たりなパスティーシュ.

○近藤史恵『サクリファイス』(新潮文庫 2010.親本 2007)
 出た当時かなり話題になったと記憶しているが,成る程,こりゃ巧い.自転車ロードレースに全然興味なくても一気に読める.

○中島らも+小堀純『せんべろ探偵が行く』(集英社文庫 2011.親本 2003)
 安居酒屋の楽しいガイドブックだが,らも氏が亡くなり,採り上げられた店の多くも無くなっていることを思うと,読後感はちょっと寂しい.

○日下三蔵編『乱歩の幻影』(ちくま文庫 1999)
 乱歩へのオマージュを集めたアンソロジー.数少ない服部正作品が載ってるので買ったが,他の作品も良い.特に山風「伊賀の散歩者」の読者大サービスぶりと,島田荘司「乱歩の幻影」の嘘のもっともらしさに感心.

△真梨幸子『殺人鬼フジコの衝動』(徳間文庫 2011.親本 2008)
 まほかるかと思った読んだら折原一だった,みたいな――文章が下手なのかワザと下手に書いているのか判然としない点を含めて.

○ゲイル・キャリガー『アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う』(早川書房 2011.原著 2010)
 3作目が一番気に入った.

○矢口敦子『人形になる』(徳間文庫 2008.親本 1998)
 最近流行りの「イヤミス」の先駆的作品であろうか...

○沖田×華『ガキのためいき 1』(講談社 2011)
 アスペルガー症候群の作者による自伝漫画.面白がっていいんだろうか? いいと思う.

○『文藝別冊 総特集 諸星大二郎』(河出書房新社 2011)
 ファンなら黙って買うしかない.

 ...来年は平穏あれかし.

2011.12.31 GESO