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タイトル2012/10/08■195 ここ二か月の覚書
記事No276
投稿日: 2013/10/05(Sat) 21:36:37
投稿者管理人
 二十年以上前になるが一度だけ猫の集会を見たことがある.阿佐谷の公園を深夜散策中に遭遇したのだが確かに不可思議な光景だった.大勢の猫たちが――数えなかったが二十匹はいた――割と広い輪になって集まり鳴き声を交わすこともなくただ黙って中心部付近を――猫によってはあらぬ方向を――見つめているだけ.いつ解散するのか分からないので十分ほど観察してからあぁいいものを見たなぁと思いつつ立ち去った.
 猫同士が理解し合えるものかどうかは疑わしい――人間同士でも理解し合えることは稀だし.ましてや基より異種である人間と動物とが理解し合うのはまず無理であろう.精々誤解の上で仲良くしたり敵対し合うことしか出来ないだろうし現にそうしているのだと思う.
 しかし理解不能なものを無理矢理理解することも拒否することもないのではないか? 理解不能を前提として共存する可能性を考えればいいのではないか?
 そもそも一つになり得ない世界を無理矢理一つにしようとすることこそ傲慢で有害無益なのではないか?

 世界(中国を除く)で一番人気の生臭坊主=ダライ・ラマ14世の外見的な親しみやすさに騙される善良な人間が多いことには驚く.彼が説いてることなどそこら辺のチャラい心理カウンセラーと大差ないのに.
 要は現実の不幸は人間にはどうしようないことだから運を天に任せて我慢しましょうね幸不幸なんて気の持ちようなんですからという現状肯定=為政者にとって好都合な奴隷思想.輪廻転生説なんてものは彼岸の幸福という空手形と引換えに現状肯定を勧める悪徳セールストークに過ぎないのに.
 まぁ彼がダライ・ラマになれたのは凄い籤運であるしチベット仏教の輪廻転生制度でしか説明がつかないということで本人は納得しているのかも知れないけれど他人に勧められるような話ではない――信じる者は勝手に巣食われるがよいが.
 兎も角ラマは事実上中国-チベット間の政治問題を宗教で解決することができず――できる訳がない――亡命した訳で今彼を生き延びさせているのは中国と敵対しないまでも中国を牽制したい諸勢力でありその庇護下にあるラマ本人には宗教を隠れ蓑に温い発言をし続けることしか出来ない道理である.


○田中克彦『国家語をこえて−国際化のなかの日本語』(ちくま学芸文庫 1993.親本 1989)
 著者はかなり極論の人なのでこれまで読んだ著作と同様に共感と反発の両方を感じる.でも面白い.

△海堂尊『ナイチンゲールの沈黙 上下』(宝島社文庫 2008.親本 2006)
○同『螺鈿迷宮 上下』(角川文庫 2008.親本 2006.各105円)
○同『ジェネラル・ルージュの凱旋 上下』(宝島社文庫 2009.親本 2007)
△同『イノセント・ゲリラの祝日 下』(宝島社文庫 2010.親本 2008)
○同『ブレイズメス1990』(講談社文庫 2012.親本 2010)
△同『ブラックペアン1988』(講談社 2007)
○同『ジーン・ワルツ』(新潮文庫 2010.親本 2008)
△同『外科医 須磨久善』(講談社 2009)
 なるほど医療エンタメ小説(『外科医 須磨久善』はノンフィクションだが)の王道を歩んでいるのだな.白鳥-田口シリーズにはやや悪ノリ感があるが他のシリーズは意外にシリアス.

×金沢伸明『王様ゲーム』(双葉文庫 2011.親本 2009)
 人気ホラー小説らしいが物語としてはかなり雑.「善人ぶって」のつもりで「偽善者ぶって」と表記するなど言葉遣いも変.

○連城三紀彦『夢ごころ』(角川文庫 1991.親本 1988)
 『雨月物語』から本歌取りしたモダンホラー12編.こうした端正な短編も書けば『造花の蜜』のようなトンデモに近い長編ミステリも書く幅の広さがこの著者の魅力.

△赤江瀑『舞え舞え断崖』(講談社文庫 1989.親本 1981)
 相変わらず見事な出来映えの6編ではあるけれど「えっここで終わり?」と感じるものが数編ある所為でやや欲求不満.でもこの人も今は亡い... もっと読みたい.

○ろくでなし子『デコまん』(ぶんか社 2012)
 美容整形手術を受けた自分の性器の型取りを基に「まんこアート」を製作している漫画家の自伝ギャグ?漫画.アニー・スプリンクルやチチョリーナを想起せずにはいられない.嫌悪感を感じる読者も多いだろうが単なるキワモノとは違う根の真面目さと本人にとっての必然性は感じられる.本作の前に百田尚樹『モンスター』を読んでいた所為かも知れないが.

○池上永一『シャングリ・ラ』(角川書店 2005)
 筒井康隆+荒俣宏的近未来ディストピアSF.大風呂敷ご都合主義的漫画的な所やキャラの作り方は後の『テンペスト』と同様.好き嫌いは分かれるだろうがこれだけ好き勝手にやってくれたらむしろ爽快.

○岸本佐知子『ねにもつタイプ』(筑摩書房 2007.ちくま文庫2010)
 正気と狂気/夢と現実の境界の曖昧さに気付かせてくれる共感度の高いエッセイ集.文庫版のほうが4編追加でお得.

○『野坂昭如ルネッサンスE 骨餓身峠死人葛』(岩浪現代文庫 2008)
 「焼け跡派」と称されていただけあって全ての収録作に太平洋戦争が影を落としている.しかし松本健一が指摘するとおり戦時だろうと平時だろうと世界は常に夥しい死者の犠牲の上に生者が君臨していると見る著者の史観は一貫している.傑作揃いだが表題作――教科書に採用するなら「火垂るの墓」よりもこっちだ ――が余りに傑出しているために他の作品が地味に見えるのが残念.

△海堂尊『死因不明社会』(講談社ブルーバックス 2007)
 ノンフィクションの体裁を採っているがAi(死亡時画像病理診断)を中核とした医療システム再構築を訴えるあからさまなプロバガンダ本である.これだけ首尾一貫して旗幟鮮明な作家も珍しい.

○寒川旭『日本人はどんな大地震を経験してきたのか 地震考古学入門』(平凡社新書 2011)
 巻末の年表を見れば大きな地震の回数が1990年代以降グンと増えていることは瞭然.日本列島自体が地殻変動によって出来上がった地表の皺みたいな存在なんだからここにいる限りどこに逃げようと――例えば熊本に逃げようと――安全とはいえない.もっとも全地球規模でも地殻活動は活発化してるみたいだから海外に逃げたところで安全ともいえないが.それならば地震は必ず起きるものと観念し起きた際の被害を最小限に留めることに注力すべきでありそのためには過去の大地震の様相を研究することが重要という至極もっともな主張なのでした.

△竹内薫『99.9%は仮説』(光文社新書 2006)
 とはいえプレートテクトニクスもまた仮説にすぎない.常識と見なされているものの殆どは仮説でしかない.例えば飛行機を飛ばすことはできても何故飛ぶのかという原理についての決定的な説は未だにない.健全な懐疑心と相対主義の必要性を説く本書は首肯できる内容だが入門書的すぎてやや物足りない.

○式貴士『窓鴉 式貴士抒情小説コレクション』(光文社文庫 2012)
 『カンタン刑』(光文社文庫 2008)の解説を読んで平山夢明が式貴士にいかれていたことが分かったが本作解説で瀬名秀明もやられていたことが判明.エログロとセンチメンタリズムを矛盾なく両立できる所は筒井康隆を思わせる.式の作家デビューは筒井より17年ほど遅いが(1977年)年齢は一歳年上(1933年生まれ).近いセンスだったのかも知れない.

○横溝正史『病院坂の首縊りの家』(角川書店 1978)
 ミステリとしてどうのこうの以前に本作は金田一耕助最後の事件だということ――あぁもう耕ちゃんには会えないのだという喪失感を与えられること――だけで感慨深い.「横溝正史の小説世界の、最大の特徴であるところのものは、ストーリイの変幻自在や心理の綾ではなくて、この、鮮烈な具象性、イメージそのものである。」(栗本薫)というのはそのとおりだと思う.例えば11月26日は何の日かというと横溝の読者にとっては何を措いても「本陣殺人事件」が起こった日なのである...

映画
△ジャン・ルノワール『ゲームの規則』(1939 仏)
 英題も "The Rules of the Game" だというし原題 "La R?gle Du Jeu" の "jeu" を「ゲーム」と訳すのは正しいんだろうけどニュアンスが違う気がする.より広義に「遊びのルール」ぐらいに捉えた方がいいのではないか.それは兎も角当時の仏蘭西階級社会の情況を実感的に理解し得ない身にとっては心底理解することは難しい気がした.

○ジャン・ルノワール『フレンチ・カンカン』(1954 仏)
 復元長尺版.初めて観たのに既視感ありありの場面が多いのは本作をパクった映画のほうを沢山観てきたからなんだろうと思わせるお約束シーン満載の芸能映画.聖林よりも日活よりもオトナなところがお仏蘭西らしいざんす.

△ヴェルナー・ヘルツォーク『世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶』(2010 米・仏)
 取り敢えず壁画自体は面白い.絵画は人類の進化に伴って発展してきたものではなく三万年前も今も巧い人は巧い/センスがある人はあるということが分かる.だが何でヘルツォークがこうしたドキュメンタリーを撮ったのかは謎.最後に洞窟に程近い場所にある原発や放射能の影響で生まれた(?)アルビノの鰐を出してくるあたりは思わせぶりだが.

○ヤン・ヨンヒ『かぞくのくに』(2012 日)
 自分の頭で考えること自体が処罰の対象となる北朝鮮/自分の頭で考えたことが多数派に属していないと段階的に処罰される日本.

△大林宣彦『この空の花−長岡花火物語』(2011 日)
 太平洋戦争と長岡花火との関わりを描く映画として制作開始された映画の撮影中に起こった東日本大震災を後から物語に組み込んだために分裂的な内容になってしまった.それを力業で纏め上げたところが大林ならではと思わせる怪作.

○ターセム・シン『白雪姫と鏡の女王』(2012 米)
 最初から最後まで楽しめる白雪姫映画の最高傑作? 極悪女王を演じるジュリア・ロバーツが実に楽しそう.ティム・バートンふうだが昨今のティム作品よりも面白い.

鑑賞
△豊島みみずく資料館
△旧江戸川乱歩亭特別公開
○弥生美術館「大伴昌司の大図鑑展」・竹久夢二美術館「夢二と大正時代 III」

2012.10.08 GESO